六
この辺りは山近くのせいか、暑さも昼を過ぎるとそれほどひどくなく、戸外で過ごすのは気持ちいい。のんびりとしておだやかな空気につつまれたなか、晃子の声が凛とひびく。
「だって、よく考えてごらんよ。孫といるようなもんだって言いながら、することはしてるんじゃない? そいつはロリコン野郎で、生でするのが好きで避妊という最低限のマナーすら守らないんだよ。あんたの健康とか身体のことなんてちっとも考えてないんだって」
よく聞くと、雪葉が所属していた店では、最初に医者の診断を受けたという。その背後にいるヤクザはかなり慎重で、地元の大物を相手に念の入った商売をしていたようだ。そして雪葉はその店で高級な商品だったのだろう。
「あんたのお母さんの言っていることも一理あるわ。どう考えたって、あんたが家元夫人になるのは無理、無理、ぜったい無理だって」
雪葉は晃子を睨みつけた。
「そんなのわからないじゃない? パパは私のこと好きだって言ってくれたのよ」
美波はこぼれそうになる溜息を必死に止めた。雪葉のような自尊心の強いタイプでも、こういったことになると盲目になってしまうのだ。
「ねぇ、よく考えてみてよ、十五歳の女の子にピルなんて飲ませるのおかしくない? あれって副作用があるのよ」
なんでそんなことをあんたが知っているの、と訊きたいのを美波はこらえた。もしかしたら晃子も使っていたのかもしれない。
「え? そうなの……?」 雪葉の顔色が変わった。
「飲んでいたとき体や心がおかしくなったことない? 生理が遅くなったりとか、気持ちがイライラしたりとか?」
雪葉は考えこむような顔になる。
「最近は随分改良されて良くなったらしいけれど、十五歳の子にそういうもん飲ませるなんておかしいって」
晃子の口調はひどく大人びており、年長の女性が無知な年下の少女を
つくづく晃子は不思議な人だと、こんなときだが美波は思わずにいられない。ひどく無邪気で幼げに見えるかと思うと、ときに大人びて老成した雰囲気をまとわりつかせている。
「ねぇ、雪葉、言いたくないけれど、そいつ……その戸倉壱成っていうお爺さんが、あんたをこの学院に入れたのには、別の思惑があるかもよ」
「別の思惑ってなによ?」 雪葉がムッとした顔になって訊く。
「生まれた赤ちゃんを
「そんなことないわよ!」
雪葉は甲高い声で叫んだ。周囲に人がいないのが幸いだ。
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