四
雪葉がもう少し歌なり芝居なりに興味があればアイドルやタレントなど芸能人を目指すという道もあったが、雪葉は歌はそれほど好きではないし、演技なども興味がわかなかった。小学生のときは母に頼んでアクタースクールに一年ほどかよってみたが、これといって光る素質がなく、講師たちを落胆させた。講師の一人はモデルはどうかとすすめてくれたが、それにはまた金と時間がかかるし、確約されるものでもない。
素晴らしい容貌にめぐまれてはいても、その美しい容器を満たすだけの美酒なり清水なりが注がれないのだ。そのことは雪葉をいらだたせた。
〝パパ〟と出会ったのは、同じ中学校の卒業生の暴走族の少年から、あるデートクラブを紹介されたのがきっかけだった。
勿論、違法行為であり、警察に見つかれば処罰されるが、そこは地元のヤクザが経営しており、警戒も手が込んでいた。絶対、本番だけはしたくないとうい雪葉の我が儘がすんなり通ったのは、雪葉の一目見て相手の目をひく美貌のおかげだろう。
場所もラブホテルなどではなく、高級なホテルで、相手の男と食事するだけという嘘のような話だったが、今までのように手や口での奉仕は覚悟していた。会った男は雪葉の父親ぐらい、というより祖父になるぐらいの年齢で、見るからに教養ありげな老紳士だった。
(怖がらなくていいんだよ。私はもう年寄りでね、お嬢ちゃんのような若い子を見ていると孫と遊んでいる気持ちになるんだよ。それだけなんだ)
彼の秘書だという男にエスコートされ、札幌のデパートで高価な服や可愛いドレス、それこそ下着からハンカチ、香水や口紅と、両手に抱えきれないほどのプレゼントを買ってもらい、一流ホテルのレストランに連れて行かれた。店員や他の客の目には、お祖父ちゃんと孫娘がいっしょに食事をたのしんでいると映ったろう。映画のなかのヒロインのような気分を雪葉は満喫していた。そして、その夜、ホテルの一室で雪葉は本当の意味で処女をうしなった。
同時に、相手によってここまで待遇が変わるということが、若い、というより幼い雪葉には衝撃だった。街角でこっそり出会い、二万、三万で安ホテルで事を済ませる男たちと、なんという違いだろう。
(女の人生は男によって変わるのよ。所詮、女は男しだいなのよ)
という母の言葉が痛いほど耳にひびく。
絶対にこの男を手放したくない、と雪葉は幼さゆえの一途さで思い詰めた。
ほどなく男が有名な華道の家元で、二度結婚したが跡継ぎに恵まれなかったということを知った。娘が一人いるらしいが、嫁いで家を出ているそうで、その娘にも子どもはいないという。
(もし自分がパパに子どもを産んであげることができたら……)
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