「私もこの班なの」

 弱々しげにそう告げる小柄な少女は、坂上真保である。

「あ、そうなんだ」

 先日、シスター・マーガレットのカウンセリングをともに受けたときのことを思い出し、美波はややばつの悪い想いがした。

「真保は家に帰らないの?」

 建物を出ると、夏の朝日が五人の頭上に降ってくる。

「ん……」

 晃子に訊かれた真保はかすかに頷いた。

「実家に帰ると、また体調が悪くなるかもしれないから、ここで過ごした方がいいって学院長が……。母さんもその方がいいって言っているらしくて」

「らしいって……、手紙書いて確認したの?」

 べつに責めたつもりはないのだが、美波の問いに真保は首をすくめ、ひどく気弱い目で見上げてくる。

「手紙書いたんだけれど……返事がなかったから、多分それでいいんだと思う」

 ここにも複雑な事情がありそうで美波はそれ以上言わなかったが、一緒に歩いている晃子はどこまでものんきだった。

「真保の家って、長崎だったよね? 長崎のどこ?」

「え、と……長崎市」

「ふうん。私は福岡。美波は東京だよね? えーと、あなた名前なんていうの?」

「美香よ。山本美香。和歌山出身」

 むっつりと美香はこたえた。

「そのお腹……何ヶ月なの?」

「八ヶ月よ。もうじき九ヶ月」

 美香が腫れぼったい目で自分の大きな腹をながめ、エプロンの上からいたわるように撫でる。その仕草にどこか憂いと疲れを感じて、美波は少しやるせない。

「じゃ、もうすぐだね。夏が終わるころには生まれるんじゃない?」

 緑の芝生のあいだにつづく石畳の上を歩きながら、高校生が言うとは思えない話をしながら五人はぞろぞろ歩いていた。

「私は北海道よ」

 自分だけ訊かれなかった雪葉が会話に割って入るように告げる。

「北海道のどこなの?」

 話に合わせるように美波は訊いてみる。

「札幌市よ」

「北海道出身なんだ。だから、そんなに色が白いのね」

 感心したように言う晃子。だが、晃子の肌も抜けるように白い。全体に色素が薄いのか、髪も眉も淡く茶色がかっており、夏日を受けて光るやはり茶色がかった瞳は茶水晶のようだ。男女共学の学校だったら、さぞ男子にもてはやされたことだろう、と思った美波は晃子の中学時代の話を思い出し、我知らず顔をこわばらせてしまう。

「これから子ども生んで育てていったら、肌も荒れるかもね」

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