七
「プレやジュニア・シスターになれたら、お菓子もらえるし、トイレだって自由に行けるし、廊下で喋ってもいいのよ。だからプレになりたい生徒や、ジュニア・シスターを目指すプレはすすんで夏休みのこって別館へ行くぐらいよ」
たしかに、プレになれたらここでの生活は楽になるかもしれないが、そうなるにはレイチェルの裕佳子や寧々がしているように他の生徒を傷つけるような真似をしなければならないのだ。美波は気がすすまない。
別館にたどり着くと、扉のところには以前顔を見たことがある中年の管理人が立っていた。下はシスターたちとおなじ修道着のスカートだが、上は黒いシャツで、その中途半端な装いからすると、正式なシスターではないらしい。そんな歳でもないと思うが短めにカットしている黒髪には白いものがまじっている。
「管理人の杉さん」
顔見知りらしく、晃子が説明する。美波はあらためて会釈した。
「こんにちは。晃子と、たしか美波だったわね。部屋は三階の大部屋よ」
「大部屋って……つまり、大勢で使うんですか?」
「そうよ」
先日訪れたとき雪葉の部屋は二人用だったので、てっきり二人ずつで使うのだと思っていたのだが、そういう部屋は事情のある生徒の場合だという。この場合、事情とは、雪葉や美香のように妊娠中ということだろう。
ドアの内へとすすんでから、美波は小声で晃子に訊ねていた。
「晃子は、ここの事情、知ってるの?」
「うん。まぁ……一応。ここでのことは言っちゃいけないことになっているけれど、大抵の子は知っているんじゃない?」
二階までの階段を上がりきったところで美波の足は止まった。二階には雪葉がいるはずだ。夕子もこの建物のどこかにいるはず。
「ちょっとだけ、友達の部屋のぞいてきていい?」
雪葉がどうしているか気になる。
「うん。じゃ、私先に三階へ行っているね」
そこで晃子とわかれ、美波は先日おとずれた雪葉の部屋へと向かった。
ドアをノックしてみる。
「……どうぞ」
聞こえてきたのは雪葉の声だ。おそるおそるドアをあけると、やはりなかからは
「……雪葉?」
「ああ……あんた?」
雪葉はひどくくだけた口調で、美波の顔を見るなり呟いた。その声もかすかに乾いている。一歩部屋に足を踏みいれた美波だが、その足がすくんでしまったのは、厭な匂いのせいだ。先日とおなじく小さなチェストを兼ねた台にのっている洗面器を見ないようにした。
「窓、開けちゃ駄目かな?」
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