脱出 一


「ここでいいわ。ありがとう」

「大丈夫かい? ちゃんと迎えが来るんだね?」

 目の前の青年、司城と名乗った彼は心配そうに顔をくもらせる。

 夕子は彼に向かって笑ってみせたものの、内心不安でいっぱいだ。本当にあいつは来てくれるだろうか。

 草抜きの作業からすこし離れた人気のない場所は学院のゴミ置き場となっており、週二回、業者がゴミを回収に来ることになっていた。今日はまさにその日だった。

 そこには学院に雇われているらしい「ナツ婆さん」呼ばれるとひどく小柄な年寄りがおり、そのナツ婆さんが小さな裏門を開けると、外から業者の男が入ってくる。

 男たちがかわるがわるゴミ袋をはこんでいるあいだ、扉はあけっぱなしになっており、ナツ婆さんは動きもにぶく、決められた仕事さえしてしまえば、周囲のことにも無頓着そうだ。立っているのも面倒なのか、詰め所らしい小屋のまえの古びた椅子にナツ婆さんが腰かけようとして背を向けたそのときを夕子は狙ったのだ。

そして外に出ると、何食わぬ顔して歩いて行った。

 作業に忙しい男二人は平然と歩いていき、しかも「お疲れ様です」と笑顔で挨拶していく夕子を疑うこともなく、自分たちの仕事に没頭していた。あまりに平然としていたので許可を得て外出していると思ったのだろう。

 それからどうすべきか夕子は迷いながら、少し歩きつづけてみた。

 ポケットには入学時に持っていたお金がわずかにあるが、頼んだ相手が迎えに来てくれなければ家までたどり着けるかどうかわからない。バス代を節約するつもりだったが、もしかして逃げたことに気づいたシスターが追いかけに来てはと心配になって、近くのバス亭をさがしてきょろきょろと田舎の道を眺めていた夕子に声をかけたのが彼、司城だった。

 齢は二十代後半ぐらいか。三十にはなっていないだろう。どことなく垢ぬけた雰囲気に、夕子は横浜で出会った青年たちを思い出した。

 最初はナンパかと思い、それならそれで自分にとっても都合がいいと思ったのだが、相手は夕子がぎくりとするようなことを口にした。

「君、聖ホワイト・ローズ学院の生徒だろう? こんな時間にこんなところ歩いているっていうことは、もしかして君、逃げて来たの?」

「え? ち、ちがいますよぉ。外出許可もらってます」

 咄嗟についた嘘だが、相手は笑って首を振る。

「外出が許されるのは日曜だけのはずだよ。……安心しなよ。学院に連れ戻したりしやしないから。家に帰るのかい? それなら送ってあげるよ」

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