「……ねぇ、変なこと訊くけれど、身体はなんともなかったの?」

「うん。……何ヶ月か生理が来なかったときがあって……」

 そのときのことを思い出すように晃子は顔をやや空に向ける。美波は背がこわばる。

「それで、困ったなぁと思って……。でも、ある夜、お腹痛くなってトイレへ行ったら、結局来たの。たまっていたのか量が多かったけどね」

 美波は唇を噛んだ。

 それは生理の出血ではなく話に聞いた早期流産なのではないか、と問いたいが止めた。

「びょ、病気とかは、大丈夫だったの?」

「うーん、それがね」

 困ったなぁ、という例の微笑を浮かべて晃子はこれもまたあっさりと言う。

「なんだかやけに体調悪い日がつづいて、養護施設の先生が病院連れていってくれたの。そしたら、カンジタ症っていうのにかかっていたんだって。あ、ちゃんと治療はしたから」

 聞き慣れぬ病名に目をぱちくりする美波に晃子が説明してくれた。

 性器カンジタ症という感染病は、おりものの増加や性器への痒みをもたらすのだそうだ。性行為で感染するが、ときに風邪などで体力が弱っているときに歯の治療などで感染する例もあるという。男性よりも女性が感染する割合が大きいらしい。

「それで、先生に今までのことがばれちゃって、散々怒られたのよ。でも、もう中学も三年の二学期の頃で、卒業まで少しだったし。高校は元から無理かなぁ、と思っていたしね」

 今は養護施設の生徒でも高校へ進学する子も多い。

「そんなときに、この学院からパンフレットみたいなのが送られてきてね。先生が、良かったら考えてごらんなさいって。なんといっても無料で卒業まで勉強できるし、女子高だからもう間違いも起きないから私にぴったりだって」

 そこでふと美波はひっかかるものを感じた。

「そのパンフレットって、施設当てに送られてきたの?」

「うーん。施設の住所で私の名前当てで送られてきたのよ。なんで?」

「……他の子には送られてこなかったの? 同じ年の女子は他にいなかったの?」

 晃子も奇妙な表情になった。

「いたけれど、もう就職や進学で進路はきちんと決まっていたし……」

 まるで狙ったように晃子だけに送られてきたというのがひどく引っかかる。

 晃子も美波の言わんとするところを悟ったようだが、吐く言葉はあっさりしていた。

「べつに、そんなことどうでもいいんだけれどね。……私の住んでた所ってね、本当に田舎だったのよ」

 ほんのり茶色の瞳には、はるか遠い田舎の風景が映っているのだろう。

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