三
「わかりました……」
受話器を戻すと、シスター・グレイスが神妙な顔で訊いてきた。
「どうでした?」
「やっぱり、すぐには来れないそうです。来月になると」
「そう。そのことを雪葉に伝えてあげなさい。少しは落ち着くかも。今日はもう遅いから、明日にでも行ってあげなさい」
「はい」
今できることはこれが精一杯だろう。
美波はとりあえず自分を納得させて部屋にもどった。
部屋にもどると夕子は浴場へ行っているようで見えない。今すぐ顔を合わせるのも気まずく、むしろほっとして、美波も浴場へと向かう。
夜になると、さすがに顔を合わせたが、夕子は無言のままだ。
「ねぇ……、夕子、すこし話さない?」
消灯後、ベッドのなかから美波は声をかけてみた。
「なによ?」
「あの……カウンセリングのことだけれど……気にしない方がいいよ」
寝返りを打つ音がした。
「あんただって、内心、あたしのこと軽蔑してんでしょ?」
「……そんなことないって」
これは事実だ。どうして夕子を蔑むことができるだろう。
「……相手の人のことが好きだったのね?」
話をそらすような質問をしてみると、返ってきたのは憤りをこめた低い声。
「まさか! 部屋に連れ込まれて、あいつのダチ数人に犯られたんだから」
美波は跳ね起きそうになった。
「そんな……、そんなことって……」
カウンセリング時には、彼のことを好きでそうなったと言ったのは、夕子の精一杯の見栄だったのだろう。
美波は動悸がおさまると、言ってもしかたないと思いつつも言ってみた。
「警察には……?」
「行けるわけないじゃなん。行ったら、あたしが馬鹿だって言われるだけだよ。男の部屋に行って酒飲んで浮かれたあたしが馬鹿な娘だってことになるんだから」
「そんなこと……」
ない、とは言えないかもしれない。
「……あたし、ここ辞めるから」
夕子はぽつりと言う。
「え? ……辞めてどうするの?」
「家に帰る」
「ご両親が、がっかりしない」
「あんなこと知られて、どうやってこの先ここで過ごせっていうのさ?」
夕子は
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