二
「お父さんの名前はありませんか?」
「保護者が母親の名前ということは、母子家庭じゃないかしら? まぁ、ここでは珍しくはないけれど」
言い方に気になったが、今は他に訊きたいことで美波は忙しかった。
「……それじゃ、離婚したお父さんの住所は書いてないでしょうか?」
「書いてないわね。……どうしてもというのなら、仕方ないわ」
そこで何かを思い切ったようにシスター・グレイスは目を光らせた。
「本当はいけないのだけれど、雪葉は大事なときだし、何かあったら良くないから、特別に許可してあげます。緊急連絡先の電話番号にかけてみなさい」
指さされた紙には、自宅らしい電話番号と携帯電話の番号がふたつ並んでいる。
「父親か母親のものか判らないけれど、とにかく連絡だけしてみれば雪葉もすこしは気が休まるでしょう。電話は、そこの机の上にあります。それは私の私用となっているので、私の責任のうえで許可しましょう」
「……あ、ありがとうございます」
見知らぬ相手に電話するというのは、高校生の美波には緊張する行為だが、とにかく受話器を取ってみた。今もし外出先なら、携帯の方がつながりやすいかと思い、そちらの番号を押す。
「雪葉が動揺しているから、一度会いに来るように言ってあげなさい。それで相手がどうするかは相手次第よ」
シスター・グレイスの寛大さに感謝しながら、美波は呼び出し音が終わるのを待った。
(駄目かな……)
留守電機能が作動しようとした瞬間、野太い男性の声が美波の耳にひびいてきた。
『はい。
「あ、あの」
美波は慌てた。どうやら父親の方につながったらしい。戸倉というのが父親の姓なのだろう。
「あ、あの、わたし、雪葉さんの友達で、こ、近藤美波といいます。あの、雪葉さんがひどく具合悪くて、お家の方に連絡するようたのまれまして……」
『雪葉が?』
相手は
『……様子はどうなんだ? 体調は?』
やや尊大そうな口調である。年齢も、声からすると美波の父親よりもずっと上のような気がする。
「わ、悪いです。すごくお父さんに会いたがっています」
相手はしばし考えこむように沈黙した。思えば北海道なのだ。簡単には来れないだろう。
『今月は無理だが、来月ぐらいならなんとか行けると思うので、それまで待つように伝えてもらえんかな?』
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