四
「あたしはちゃんと
「彼は結婚を約束しましたか?」
シスター・マーガレットの冷ややかな問いに夕子はうんざりした顔をしてみせた。
「はああ? あんた、何言ってんの。あたし高校生だよ」
「彼とはその後どうなりました?」
「どうもこうも、親があたしをこの学院にほうりこんだんだから、それっきりよ。スマホだって、手紙だって出せないんだし……、どうしようもないじゃん」
どうしょうもない、と言いつつも、語感に拗ねたひびきがあった。
「妊娠しましたか?」
その言葉に室が凍りついた。
美波と他の二人の生徒は緊張に青ざめて夕子を見ていた。
「知ってんじゃん! 知っていて、なんでこんなことすんのよ!」
夕子は席を立っていた。
「やってらんないわよ! あたしもう帰るからね」
「このままだとあなたは地獄に堕ちます」
優しさのかけらもない言葉にまたも三人の生徒たちは硬直したが、当の夕子は敵意に燃えた目をシスター・マーガレットに向けた。
「けっこうだよ、地獄に堕ちようが、閻魔様に舌を抜かれようが、そんなもんあたしの勝手じゃない。ほっといてよ。文句があるなら、さっさとあたしのこと退学させたら? こんな学院いつでもやめてやるって!」
そう捨て台詞を吐くと、夕子は部屋のドアを開けた。
「戻りなさい!」
「おことわり!」
ドアを叩きつけるように閉め、夕子は出ていった。
部屋には凍り付くような沈黙が満ちたが、やがてそれはシスター・マーガレットの微笑みで奇妙にぬるくなった。
「困った人ですね。仕方ありません。今日のカウンセリングはここまでにしましょう」
この言葉に一番救われたのは美波だった。全身の力が抜けていく。
「では、皆さん、お疲れさま」
美波と他の二人は力なく立ち上がると、部屋を出た。
「なんか、びっくりした……」
ドアを閉めたとたん、真保がつぶやくように言い、桜子もうなずいた。
「あの子、妊娠したっていうことは、つまり、
「なんか、すごい……」
そんなことを言う二人に、美波は言わずにいられなかった。
「ここで聞いたことは、絶対他の人に言わないようにしようよ」
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