「あたしはちゃんとわたるのことが好きになって、愛し合ってしたんだから」

「彼は結婚を約束しましたか?」

 シスター・マーガレットの冷ややかな問いに夕子はうんざりした顔をしてみせた。

「はああ? あんた、何言ってんの。あたし高校生だよ」

「彼とはその後どうなりました?」

「どうもこうも、親があたしをこの学院にほうりこんだんだから、それっきりよ。スマホだって、手紙だって出せないんだし……、どうしようもないじゃん」

 どうしょうもない、と言いつつも、語感に拗ねたひびきがあった。

「妊娠しましたか?」

 その言葉に室が凍りついた。

 美波と他の二人の生徒は緊張に青ざめて夕子を見ていた。

「知ってんじゃん! 知っていて、なんでこんなことすんのよ!」

 夕子は席を立っていた。

「やってらんないわよ! あたしもう帰るからね」

「このままだとあなたは地獄に堕ちます」

 優しさのかけらもない言葉にまたも三人の生徒たちは硬直したが、当の夕子は敵意に燃えた目をシスター・マーガレットに向けた。

「けっこうだよ、地獄に堕ちようが、閻魔様に舌を抜かれようが、そんなもんあたしの勝手じゃない。ほっといてよ。文句があるなら、さっさとあたしのこと退学させたら? こんな学院いつでもやめてやるって!」

 そう捨て台詞を吐くと、夕子は部屋のドアを開けた。

「戻りなさい!」

「おことわり!」

 ドアを叩きつけるように閉め、夕子は出ていった。


 部屋には凍り付くような沈黙が満ちたが、やがてそれはシスター・マーガレットの微笑みで奇妙にぬるくなった。

「困った人ですね。仕方ありません。今日のカウンセリングはここまでにしましょう」

 この言葉に一番救われたのは美波だった。全身の力が抜けていく。

「では、皆さん、お疲れさま」

 美波と他の二人は力なく立ち上がると、部屋を出た。

「なんか、びっくりした……」

 ドアを閉めたとたん、真保がつぶやくように言い、桜子もうなずいた。

「あの子、妊娠したっていうことは、つまり、ろしたっていうことよね」

「なんか、すごい……」

 そんなことを言う二人に、美波は言わずにいられなかった。

「ここで聞いたことは、絶対他の人に言わないようにしようよ」

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