シスター・マーガレットのまえで、夕子は挑発するように足を組んだ。青いスカートがひらりと揺れた一瞬、美波には夕子がまるでドラマなどに出てくる酒場女のようにはすに見えてしまう。意識して夕子はそんな態度をとっているのだ。

「ロックのコンサートに行きたくてキセル乗車したことがあります」

 一瞬、意味を考えたが、ただ乗りのことだと推測した。

「他には?」

「まぁ、好奇心で万引きも中学のころ一回だけしました」

「なにを盗んだの?」

「Tシャツ一枚。それだけです」

 美波は目を見張っていた。

「他には?」

「……それぐらいです」

 捨て鉢な態度で答える夕子を、シスター・マーガレットはやんわりと睨みつける。

「私の顔を見なさい、夕子」

 シスター・マーガレットはきびしい表情で命じた。

「私の目を見て、真実を言いなさい。あなたは他に罪を犯さなかったというの? 汚れない清い身だといえるの?」

「……」

 夕子のいつもの気丈さがくずれてきた。

 美波の方がハラハラしてくる。

「誤解しないで。私はあなたを責めようとしているのではありません。それどここか、あなたの堕落した魂を救おうとしているのですよ」

「はあ?」

 夕子がまた挑発するように敵意をこめて訊き返すのに、シスター・マーガレットはさらに言いつのる。

「あなたは、なぜこの学院に来るようになったのですか? その罪を考えてごらんなさい」

 夕子の目が敵意に燃えた。

「……知ってんの? だったら訊かなくてもいいじゃん」

「ここですべて打ち明けるのです。罪を懺悔しなさい」

 馬鹿々々しい……、そう低くつぶやいて夕子はシスター・マーガレットと、ちょうど向かいあうかたちで座っている真保や桜子をも睨みつけた。

「じゃ、言うわよ。バイト先の店で知り合った年上のロッカーとセックスしました」

 声高にそういう夕子に真保は唇をひきしめ、桜子は肩をすくめた。美波はどういう顔をしていいかわからず、ひたすら無表情をつくろっていた。

「そして?」

「……それだけだって。相手とはその後何回が会って。言っておくけど、あたしはウリはやってないからね」

 夕子の言葉はここにいる四人だけに言っているのではなく、彼女をとりまくこの世界のすべてに向かって宣言しているようだ。

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