二
「生徒たちはそれを〝洗濯ぶくろ〟と呼びならわしています。そこのプラスチックのタッグにこの部屋の番号、つまり101と書かれているはずです。A、Bと二枚ありますから、Aは美波でBを夕子が使いなさい。それに洗濯物を入れて明日の回収のときに出すように」
「え? 自分で洗うんじゃないんですか?」
てっきり寮のどこかに共有のランドリーのような場所があるものだと思いこんでいた美波は驚いた。
「ええ。明日朝の六時に回収のワゴンがまわってきます。そのとき出しなさい」
「は、はい……」
とは言ったものの、自分の下着や靴下を他人に洗ってもらうのかと思うとすこし厭なものを感じる。逆に夕子は感心した顔になっている。
「ホテルみたいじゃん」
シスター・アグネスはそんな二人に向かって、「では」と言い残して部屋を出て行った。
それにしても散々な一日だった。そんな想いを抱きながら二人とも、これも支給された白い木綿のナイトウェアに着替えはじめた。
「なんだか修道女みたいね」
美波の力ない呟きに夕子がうなずく。
やがて時刻がきたようでベルの音がひびく。
消灯時間である。これ以降は電気のスイッチを押しても灯りはつかないという。ためしに夕子が壁のスイッチを押してみたが、たしかにつかない。
「本当にここ嫌だ。絶対嫌!」
暗闇のなかでいきりたつ夕子はちいさな獣のようだ。
それでも疲れていたせいで、やがて心地よいまどろみに襲われ美波の意識は闇に溶けた。
泣き声が聞こえてきた。
漆黒の闇のなか、ひびいてくる声。
美波は自分が夢を見ていることを自覚していた。
これは夢だ。夢のなかのことなのだから、そのうち終わる――そうは思っていても、その泣き声はだんだん大きくなってくる。
やがて我慢できないほどに大きくなる。
激しい音を放っていたのは目覚まし時計だった。
「こんな時間に起きたの初めて」
ぐちぐち言う夕子をひっぱってトイレを兼ねた洗面所に行くと、やはりすでに混んでおり、制服すがたの生徒もいれば、美波たちのようにナイトウェアのままで来ている生徒もいる。それぞれ
「こんなときも待たなきゃならないわけぇ」
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