今日はやけに涼しく汗もろくにかかなかったが、やはり身体を洗うのは気持ち良い行為で、待ち時間の疲れからも美波は湯を浴びるのが嬉しく、手早く脱いだ制服や下着を棚にならぶバスケットにいれ、バスタオルを身体にまきつけた。

 だが浴室に入ってすぐ、ドアの側にシスター・アグネスが立って、生徒たちを監視するように厳しい目を向けていることに美波は鼻白んだ。彼女は美波たちを見ると、少し目つきをやわらげた。

「カミソリや石鹸など私物の持ち込みは駄目です。備え付けのボディソープを使うように」 

「あ、はい」

 カミソリなどは持ってきていないが、髪を洗うための櫛は持ってきている。それを目ざとく見つけたシスター・アグネスの目が光る。

「今日は水曜日なので、あなたたちは髪は洗えませんよ」   

「え?」

 美波は勿論、夕子もびっくりした顔をしている。

「二年生が髪を洗っていいのは火、木、土です。一年生は月、水、金。三年生は水、金、日です。そういうわけで水、金はシャワー室が混むのですから、早めに来るように」

 シャワーブースによくあるように、半分だけの長さのドアがついた個室のスペースが二十近くならんでおり、扉近くで待っている生徒たちは、空いた場所へと進む。

 半分ほどの個室にはシャンプーが備えてつけてあり、髪を洗う生徒は向かって右半分にある個室へと進むのだという。さらに奥にはシャワーカーテンで仕切られたバスタブのある個室が五つ並んでいるが、そこはシスター専用で一般生徒の使用は禁止だと告げられ、これにも夕子が不満げな顔をする。

「早くしなさい、あなたたちは左側の空いたところへ行くのよ」

 美波は湯にかるのは諦められるが、髪を毎日洗えないというのには我慢できず、訊いていた。

「あ、あの、それじゃ、週三回しか髪洗えないってことですか?」

「そうです」

 シスター・アグネスはあっさりと言うが、今日のような涼しい日ならともかく、じきに本格的な夏が来る。真夏に、週三日しか髪を洗えないというのは想像するだけでも辛い。だが、立ち尽くしている美波にさらにシスター・アグネスは追い打ちをかけるような言葉を告げた。

「週三回洗えるのは六月から九月の四カ月だけです。それ以外は週二回ですから」

「そんな……。あ、でも、夏休みのあいだは……」

 一番暑いころは帰省しているのだから少しはましかと美波は気を取り直したが、裕佳子から聞いた話が頭をよぎり、シスター・アグネスの言葉も衝撃だった。

「でも、あなた方は帰れませんからね」

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