六
小学時代の同級生が高校は親の方針で全寮制に行き、最初はかなり困惑したがじきに慣れてそれなりに楽しく過ごしていると、人づてに聞いたことがある。
(そうよ……。来たばかりで混乱しているんだわ。もう少し我慢したら慣れてくるかも)
美波は必死にそう自分をなだめた。
「九時シャワーで十時に寝るなんてひど過ぎじゃん」
その後も夕子はぶつぶつ言っていたが、まだ宿題のない二人は他にすることもなく、しばらく自室で過ごしたのち、支給されたバスタオルを手に向かいの棟へ向かい、一階端のシャワー室へ向かう。
扉の前にはすでに生徒たちが並んでおり、その一番後ろに二人はつく。
列はなかなか縮まらず、美波もうんざりしてきた。
(こうして待っている時間が無駄よね……)
せめて夕食後の七時頃から十時までのあいだに生徒が好きな時間をえらんでシャワーを使えるようにしてくれれば、こんな無駄な苦労をせずにすむのに、と歯がゆく思う。
しかし不服そうな顔をしているのは美波と夕子だけで、他の生徒は愚痴ひとつこぼさず静かに待っている。そんな様子を美波がやや妙に感じたとき、並んでいる生徒たちを尻目にあとから来た生徒が平然とシャワールームへと向かう。
何か特別な用事でもあるのかと美波は思っていたが、彼女はさも当然というふうに棚に自分の着替えを置くと、バスタオルを身体にまきつけ、待っている生徒に向かって手ぶりで下がるよう指示した。
(え?)
目を見張っている美波に夕子は低くささやいた。
「順番抜かしじゃん。なんで?」
夕子の疑問に、背後に並んでいる他の生徒が、小声で説明した。
「あの子はジュニア・シスターなのよ。一年の
「一年?」
ちょうど下がるように指示された生徒は背が高く、どう見ても下級生には見えない。二年か三年だろう。一年生が上級生に向かってあんな態度をとっていいのだろうか。
美波がやや驚愕していると、さらに背後の生徒は言い足した。
「シスター名はバーバラよ。あの子はレイチェルより
その声には怯えたひびきすらあり美波はますます驚愕した。
「ふん、なにがバーバラだよ。馬鹿々々しい」
「しぃ……」
背後の生徒は小鼠のように身をすくめて囁く。その目には本当に恐怖が滲んでおり、美波は背がぞわぞわした。
そうしている間にどうにか列はすすみ、美波たちの番がまわってくる。浴場は湯煙がもうもうとたっており、水音が絶え間なくひびく。かすかにシャンプーの匂いや消毒剤のような匂いも漂っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます