神のほどこし 一
「これ、言っちゃいけないことになっていたんだけれど、あたし〝特待生〟なのよ」
「特待生? ……つまり優秀だから学費免除とかいうの?」
もしくは奨学金をもらっているということか。怪訝そうな顔をする美波に、夕子は大きく首を振った。
「まさか! そんなありがたいもんじゃなくて、逆よ、逆」
目をぱちくりさせている美波に夕子が説明した。
「つまりさ、問題があるからこそ、そういう生徒を引き受けてくれたんだって。授業料も寮費も免除ってことで」
美波はまた目をぱちくりさせてしまった。
「え、そうなの? それは、つまり、ボランティアで、ということ?」
「そんなもんかな。あたしみたいなのを、
最初、私立の全寮制の学院に行くように言われたとき、夕子はかなり驚き、反対したそうだ。
お金持ちのお嬢様校が性に合わないということもあったが、小さな工場をいとなむ夕子の実家はかなり資金繰りで苦労しており、経済的にも家計は大変だという。夕子には二歳下の弟もおり、これからまだまだ金がかかる。
そんな状況で私立の学校、それも寮になど入れないと激しく抗議する夕子に、両親はしかたなく説明したのだそうだ。学費寮費いっさい免除で、しかもそこは単なるお嬢さん校ではなく、社会に適応できる能力もみがけるという願ってもない学校だと。
『本来教育とは――失礼ながら、問題のあるお子さんにこそ必要なものなのです。日本では義務教育は中学までですが、人には個性というものがあります。ときには十六歳になっても、十七歳になっても、まだまだ基本的な教育が必要な子どももいます。それに普通の高校では校則違反した生徒は退学させますが、それは真の教育とはいえません。指導が必要な生徒にこそ愛が必要なのです。我が学院は、本当に愛が必要な生徒にこそ手をさしのべたいと思っているのです。私どもにおまかせいただければ、必ずやお嬢さんに適切な指導をほどこし、立派な女性に育てることが出来ます。その点は保証します』
そういったことを、学院長の秘書だという男性は懇懇と説明したのだと、夕子は後に母親の口から聞いた。
「で、その秘書のおっさんが言うには、学費免除のことはあたしには言わない方がいいって。よけいな気を遣って委縮してしまったり、あたしが他の生徒に喋っちゃって、そのせいで色眼鏡で見られたりしたら良くないとか」
「ふうん……」
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