十
「もともとお嬢様学校なんて性にあってないから嫌だとは思ったんだけれど」
夕子はベッドで横になると天井を睨みながらそんなことを言う。
あれからもあちこち見学し、二人はやっとこの部屋にもどってきたのだ。
夕食時間の六時まではまだ間があり、それまでに荷物の整理をするように言われているが、美波も少し疲れていた。向かいのベッドに腰かけると、夕子がしたのとおなじように溜息をつく。
「……夕子は、どうしてこの学院に来たの?」
「えー、親に行けって言われたのよぉ」
ごろん、とベッドの上でうつ伏せになると膝から足を折って天井に向け、夕子は頬杖ついてしんどそうに言う。
「前の学校……、もちろん地元の公立だけれど、そこクビになっちゃって、ぶらぶらしていたら親がそれならここへ行けって」
「ふうん……。わたしと同じね。わたしの場合は病気だったけれど」
美波は慎重に言葉をつむぐ。
「病気? なんの?」
「肺炎にかかってしまって。……休学していたら元の学校に戻るのが……ちょっと嫌になって。ほら、授業とかも進んでしまっているし、なんだか、病人扱いされるのも気が重くて……」
肩が凝ってくるのを美波は自覚したが、夕子は特に気にもとめず、相槌を打つ。
「わかる、わかる。あたしも停学くらったあとは学校行くのが面倒くさくなったもん」
「停学になったの?」
「そ」
「理由はなんなの?」 好奇心にかられて美波は訊いていた。
「カンニング。あと、煙草とかも吸ってたし。夜遊びしていたのを補導されたこともあったかな」
あっさりと夕子は言うが、内心美波はかなりたじろいでいた。
すくなくとも美波はごく普通の高校生だったので、喫煙飲酒、深夜徘徊などは縁がなかったのだ。
(でも……考えてみたらわたしの方がもっと普通じゃないのかも)
つい考え込んでしまっている美波に気づかず、夕子は愚痴っぽく語る。
「高校なんて、もうどうでもいいや、と思っていたんだけれど、親がうるさくてさぁ。ここならお金もあんまりかからないっていうから」
「え? そうなの?」
美波は驚いた顔になっていた。
これだけの私立校なら相当学費もかかるはずだ。母はなにも言わなかったし、美波の家にとってはそう負担ではないだろうが。
「あ、まずい。言っちゃいけないことになっていたんだ」
夕子は、いかにもしまった、という顔になったが、すぐに苦笑いした。
「いやー」
身を起こすと夕子は美波と向きあうようにした。
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