学院長は、この話はこれでおしまいと言わんばかりにスマートフォンを片付けて引き出しに閉まってしまうと、二人に向きなおった。

「我が聖ホワイト・ローズ学院は、キリスト教の理念にのっとった女子教育を実践しております。ここで学ぶのは礼儀と秩序、敬意、思いやり、」

 そんな話はすこしも耳に入ってこず、美波も夕子もスマートフォンをうばわれた衝撃で茫然自失だ。

「あ、あの……!」

 思い切って美波が口をひらくと、学院長は話を遮られたのが不快らしく眉をひそめる。

「なんですか?」

「あ、あの、家族に、両親に連絡を取るときはどうすればいいんですか?」

「火急の場合は職員室の電話を貸します。それ以外は手紙を書きなさい。ちなみに授業の一環としてご家族に手紙を書くことも教えています」

 怪訝そうな顔をする二人。

「つまり、授業で手紙を書くのです。月に二回は学院での近況を報告することになっているのですよ」

 ふたたび横から口をはさんだシスター・アグネスに向かって、夕子はなじるような言い方をしていた。

「それって、親への手紙を強制されるってことですか?」

「手紙の書き方を学ぶ勉強にもなりますし、国語力もつきます。ご家族もあなたがたから手紙をもらえば喜ぶでしょうし」

「誰も喜ばないですよ」

 夕子の口調は拗ねたようなものになっている。美波はあることを思いついて訊ねていた。

「あ、それじゃ、もし休日に外へ買い物に行くときは? そのときだけでも返してもらえますか?」

 帰省するとき返してもらえるのなら、外出時もどうにかなるのでは、とはかない希望をこめて訊ねた質問に、かえってきた言葉は美波たちをいっそう動揺させた。

「外出はできません」

「ええ!」

 二人同時にさけんでぽかんと口を開けてしまっていた。

 田舎ではあっても駅前にはモールや商店街があり、ファーストフード店やカフェのチェーン店も見え、休日にちょっとした買い物ぐらいはできそうで、美波はほんの少し安心していたのだ。

「すくなくともあなた方はしばらくは出来ません」

「ど、どうしてですか?」

 もはや夕子の目つきは剣呑けんのんなものになってきている。

「おいおい説明しましょう。ではこれから学院内を案内させます。ジュニア・シスターは呼んでいますか?」

 学院長がシスター・アグネスに向かって問う。

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