六
しばしの沈黙のあと、学院長は二人を睨みつけた。
「返事は?」
あわてて美波と夕子は「はい」と返した。
「返事や挨拶は大事です。我が学院では礼儀を重んじます」
「はい」
二人は同時に応えた。
「それぞれ名前を名乗りなさい。まずは、あなたから」
目線でうながされ、美波はあわてて答えた。
「こ、近藤美波です」
「小瀬夕子です」
ここでまた数秒の沈黙ののちに学院長が発した言葉は二人を驚愕させた。
「二人とも、スマホを出しなさい。携帯なら携帯をここに出しなさい」
一瞬、美波は目を見張った。
「なにをしているのですか? すぐここへスマホか携帯を出しなさい」
重たそうなヨーロッパ製らしい自分の机を指差し、学院長はきびしく命令してくる。
「え、ええー!」
冗談じゃない、というふうに夕子が声をあげる。
「な、なんでですか?」
「いいから言われたとおりに出しなさい」
美波は救いをもとめるようにドアのところに立つシスター・アグネスを見たが、その榛色の目は動じることなく、どこか冷ややかである。
「これを返すのは休暇で帰省するときと卒業するときです」
「そ、そんな!」
悲鳴のような声をあげたのは夕子だ。美波はただ呆然としていた。
「スマホがないと生きていけない!」
「そういう今時の子どもの悪癖をなおすためにしているのです」
平然と言う学院長に夕子は尚もくいさがった。
「で、でも、勉強にも役立つんです。アプリで単語覚えたり、英語ニュース聞いたり」
「AV室ではビデオが見れますし、英語教材も豊富にあります」
「ほ、本とか読んだり」
「図書室があります。ちゃんと紙の本を読みなさい」
「マ、マンガは」
「そんなもの読まなくてよろしい」
「わずかなら図書室にも置いてありますよ」
シスター・アグネスが口をはさんだが、たいした慰めにもならず夕子はますます青ざめていく。美波も同様で、硬直してしまっていた。
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