待ち合わせ
大きな駅前で女を待っていた。業者アカウントにDMしてアポイントを取った。即座に『穂別で諭吉さん2人お願いします』と返事が返ってきた。それから写真交換してから待ち合わせ場所を確認した。
まっすぐな黒髪に大きな目をした、おとなしそうな20歳くらいの女性を待っていた。
服装を聞いてきたので『紺のスーツに目印に赤と白のツートンカラーのネクタイ』を着ていくと告げた。折り返し服装を聞き返すと、紺のワンピースに白いブラウス、薄い緑のカーディガンらしい。
さて、ワンピースと白いブラウスを一緒に着るのはさぞ大変かもしれない。どんな格好で現れるのか楽しみにしていた。
「あの、待ち合わせをしてくれたひとですよね」不意に女性に声をかけたれた。そこには瞳に落ち着きがなく、大人しいというよりも不安定そうな女性が立っていた。
「待ち合わせはしてますけど、貴女ではないと思いますよ」
送られてきた写真とは明らかに違っていた。きついウェーブの茶髪は前髪が長すぎて切れ長の眼を隠している。それにダメージのデニムにグレーのパーカーは約束とは決定的に違っていた。
「でも赤と白のツートンのネクタイが……」彼女はうつむいて口ごもった。
「変ですね。写真も服装も全くちがうみたいですけど」
「えっ、あっ、あの、写真は少し盛ってたからですかね」彼女は左斜め下を見ながらボソボソとそう言った。
「わかりました、写真はともかく服装が違うのはどうしてですか? いくらなんでもルール違反じゃないですか」ちょっとキツめに言った。
「あの、でも、服装まで聞いてないので……」
「聞いてなかったんですか?」
「いや、その、出かける前にコーヒーこぼしちゃってですねぇ」
「それで、赤いスカートを汚しちゃったんですか?」
「はい。赤いスカートは脱いで、ジーンズに着替えました」彼女少し顔を上げて早口でそう言った。
「でも約束は紺のワンピースでしたよね」
「えっ、騙したんですか? そんなぁひどいです」
「とりあえず、待ち合わせの方じゃないみたいなので俺は帰ります」
「そんなの困ります。ちゃんと約束したじゃないですか」そのとき初めて彼女と目が合った。目が潤んで涙も溢れそうだった。
「約束はしたけど、貴女とじゃないから」
「でも、それじゃ困るんです。『仕事もできないのか』って怒られるんです」 彼女も一杯だったから、追い込むのはやめることにした。
「じゃこうしましょう。今から質問します。正直に答えてくだされば一緒にホテルへ行きます」
「えっ、なにを聞くんですか?」
「なにをとかじゃなくて、正直に答えてくれますか?」
彼女は少し考えてから小さく頷いた。
「貴女は派遣事務所に所属されてますね」
彼女はまた小さく頷いた。
「そこで性行為をして、お金をもらってくるように言われているんですね」
「はい……」消えるような声が聞こえた。
「そして、近くには見張りが居ると」
「えっ……。はい。居ます」
「わかりました。じゃ一緒にホテルに行きましょうか」
「うん」辛そうな声が耳まで届いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます