第21話『あの水島さんの弟!?』
トモコパラドクス・21
『あの水島さんの弟!?』
紀香が不審げに戻ってくると、幽霊さんはホコリを払って、やっと立ち上がったところだ。
幽霊さんは、戦前の旧制中学の制服を着ている。起き抜けみたいに目をしばたたかせ、そしてキョロキョロした。で、友子と紀香の顔を交互に見た。
「君たち、僕のこと見えるんだ……?」
「うん、はっきりとね」
「幽霊ってのは、本人は自覚してないだろうけど、一種の残留思念なの」
紀香は、ロマンのカケラもない話をし始めた。
「残留思念……?」
「オナラしたら、臭い残るでしょ。あれみたいなもん」
「オ、オナラ……」
「……じゃ、かわいそうか。写真撮るでしょ。ストロボ焚いてズボッって。そしたら、しばらく光が目に残るでしょ」
「もうちょっと、ロマンチックにさ……」
「むつかしいな……好きな女の子ができたとするじゃん。そしたら、寝ても覚めても、その子の姿が目について離れない……これくらいでいい? わたしの言語サーキットって、あんまり文学的にできてないの。ごめん」
「じゃ……僕って、ただの幻?」
「そういうこと」
しょげてきた幽霊さんに、友子がフォローに入った。
「あのう、あなたの時代でも、電話ってあったじゃない。あれって不思議でしょ。何百キロって離れたところから話しても、耳元でしゃべってるみたいでしょ。それに近い」
「あ……オナラよりましかな?」
友子は思いついて、スマホを出した。そして五目並べの無料ゲームをダウンロ-ドした。
「やってみて、ここの画面にタッチするだけでいいから」
「え……すごい。僕五目並べには自信あるんだけど……あ、負けちゃった。これ、誰かがどこかで操作してんの?」
幽霊さんは、スマホをひっくり返したり、グッと目に近づけて見つめたりした。
「それ、中に五目並べに関する思考力が入ってるんです。これ、ちょっと近い?」
「人工頭脳?」
「まあね」
「こんなのもあるよ」
紀香が、タブレットを取りだした。
「なんですか、この厚めの下敷きみたいなのは?」
「まあ、いいから。出会いって字にタッチしてごらんよ」
「え……うわ!」
幽霊さんが腰を抜かした。
タブレットの上には1/2サイズの女の子のホログラム映像が現れていた。
『わたしでよければ……お付き合いしていただけますか。名前は紀香っていいます♪』
「もっとタッチしてごらんなさいよ」
タブレットの上には、次々と美少女が現れては幽霊さんを誘惑していく。
「紀香、キャラに人の名前付けるのやめてくれる」
「ごちゃごちゃ言わないの」
「それに、紀香って子と、友子って子と、ずいぶん差があるように感じるんだけど」
「差を付けたんだもん」
あまりの正直さに、友子はズッコケた。
「それに、それに、これって現代の技術にないもんだし!」
「まあ、いいじゃん。ほんのお遊びなんだから……え、なんで、そいつ選ぶの!?」
幽霊さんは、友子を選んでいた。
「飾りっ気がなくて、僕と気が合いそうで……」
「あ、そ!」
紀香はむくれたが、幽霊さんはのめり込んでいた。
「僕、水島昭二っていいます。昭和四年生まれ。兄が昭一、もう成仏しちゃったけど。あ、僕幽霊なんだけど構わないかな(#^0^#)」
『あ、わたし、幽霊さんて大好きです。生きてる人間みたいにウザイこと言わないし。いつでも、お相手してくださいそうで。あ、あの……』
「なんだい?」
幽霊さんは、あまり身を乗り出しすぎて、ホログラムの友子と被ってしまった。まるでCGのバグだ。
『ハハ、お互い実態がないから被ってしまいますね』
「ああ、ごめん」
幽霊の水島クンは、頬を染めて後ずさった。
『お名前、なんて読んだらいいですか。水島さん? 昭二さん? あ、ハンドルネームでもいいですよ』
「ハンドルネーム?」
『あ、仮名のこと。バンツマとかエノケンとかさ』
「僕は、堂々と本名だ!」
『じゃ、水島さん』
「あ、それじゃ、兄貴と区別つかなくなるから、昭二で」
『じゃ、昭二さん……』
そこで、紀香はタブレットのスイッチを切った。
「あ、友子さん……」
「分かった? 原理的には、この子と水島クンは同じなの。この友子は人工頭脳が作った残像みたいなもの。あなたはこの校舎や時代の空気に焼き付いた残留思念なの。でも、ちゃんとした自意識も判断力もあるけどね。それを世間では幽霊という。分かった!?」
「分かったよ、なんとなく……でも、君たちも人間じゃないね」
そこからの説明は長くなったが、どうやら水島クンは分かってくれたようだ。非常に洞察力と理解力に優れている。旧制中学は偉い!
「あなたって、ひょっとしたら『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』に出てくる水島さんの弟さん?」
「その物語は知らないけど、水島昭一なら、一歳年上の兄貴だよ。そんな物語があるんなら読んでみたいな!」
水島クンが目を輝かせた。
「あ、今は手許にないの。電子書籍にもなっていないし、そうだ!」
友子は、紀香のタブレットをひったくり、アマゾンのサイトを出した。
「よかった、『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』は一部在庫有りだって、注文しとくね」
「ちょ、ちょっと」
「これも縁じゃん。半分ずつもって、水島クンにプレゼント」
そう決めたとき、談話室のドアを開けて、三者懇談の終わった妙子が入ってきた。
「え、どうかした、二人とも?」
どうやら、妙子には、水島クンの姿は見えないようだ。
友子は、謎であった『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』の水島さんの名前が分かって、大満足であった。
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