2041 雲林防衛戦
C.E.2063_0528_0532
翌日の朝5時。
うちらはいま、雲林の西螺城にいる。
大きな城だ、城壁も強固で分厚い、ただ住民は少ない、城というより、防衛要塞だな。
セントは着いた後すぐ、前線へ行った、前線指揮官と合流するつもりらしい。
そしてうちらは西螺城内で、城主と戦況確認をしている。
この城主も老人だ、多分60後半だろう。
小さな戦闘指揮所だ、椅子すらないぞ、中央の大きなテーブル以外、なにも置いていない、そのテーブルの上に、大きな地図が張っている。
「天上様、まさかあなたがこんな前線に現れるとは…」
「訳ありだ。」
「そうですか、もしかして、援軍として?」
「確かに援軍だな、だがお前の援軍要請とは別ものだ、近くにいる部隊の招集はもうしばらく掛かるだろ。」
「なるほど、状況から見るに、間に合わないだろうな、だから天上様は一足先でここまで駆けつけたか。」
「そういうことだ。」
「して?天上様、この子達は?」
「助っ人だ。」
「助っ人?こんな女子供で…」
「子供で悪いか!」
「さーちゃん!失礼なことをしちゃいけません!」
「城主よ、こいつらはお前の首ぐらい、簡単に吹き飛ばすことができるぞ?」
「…なるほど、天上様のお墨付きなら、さぞ強力な超能力を持っているのだろ。」
「ああ、そしてもう一つ。」
「天上様なら、なんなりと。」
「現時刻から、指揮の全権は、この千月に譲ってくれ。」
「…はい?」
「ふええーー!?」
天上のやつ、強引だな、最初からこうするつもりだろうな?
こりゃ高みの見物もできなくなった、くそっ!うまく利用されたか。
「ちょ、ちょっと天上さん、いきなり全軍も…」
「天上様、流石にこれだけは了承できない、こんな子供に指揮権を譲るなど…」
「千月、この期に及んで、怖気ついたか?」
「いえいえ、流石にいきなりすぎるんじゃ…」
「時間がない、それに、我はなにも強制してないぞ?確かに最初からお前を頼みたいのだが、拒否権もあるのだぞ?」
「はい…、確かにそうですね、しかし城主さんは…」
「天上様、例えあなたでも、このようなふざけた命令は従えないぞ?」
「命令ではない、そもそも我はそれほどの権限もない、これは脅迫だ。」
天上は…刀の柄を軽く握った。
「…ここまでするのか?」
「ああ、従わない場合、お前を切り捨てるまでだ。」
天上のやつ、一体何を考えているんだ?ここまでする必要があるのか?
全く理解できない、千月の戦術頭脳は確かに神がかりだ、先の嚮後との一戦も証明された、天上にとっても利用価値が高い人間だ、しかしそれだけで全部賭けるはずがないだろ?
「…千月っと言ったな?」
「はい…」
「天上様はここまで信頼を置いている人間は、見たことないぞ?」
「…………」
「…天上様、別に命を惜しい訳ではない、だが私はこれでも一軍の将だ、数千数万の命は、この身に預かっている、将は先に逝っては、全軍の死も意味する、あいつらを置いて先に死ぬ訳にはいかない、だから条件付きでどうだ?」
「ああ、なんだ?」
「ここを乗り越えたら、なにもいうことはない、ただし負けたら、私は天上様が強引に、私から指揮権を奪った、そして負けたっと、この様に大姫様に報告したあと、自決する、いいかね?」
「好きにするがいい。」
「本気か?天上様は自分から戦争に参加するのはこれで始めてではないか?もし初戦でボロ負けたら、雲林は敵の手に落ち、さらに私も含み、数千数万もの将兵が死地へ追い込んだ責任、それは全て、天上様にあるぞ?さらに大姫様の名声と名誉も傷が付くぞ?」
なに?初めてだと?こんな強さを持っているのに、どうして戦争に参加しないのか。
いや、その理由はどうあれ、うちらと関係ない、重要なのは、どうして今更参戦するのか、しかも千月を連れて…、まるで千月を試すような…
「問題ない、好きにしろ。」
「わかった、では、今から千月…さんに、指揮権を譲る。」
「待って城主さん、譲る必要はありませんわ。」
千月のやつ、さっきから地図をじっと見つめていて、なにを考えているのか…
「…それはどういう…」
「全軍は今、前線にいるのでしょう?」
「ああ、僅かな予備兵と各当番を除き、一人残らず全部前線にいる。」
「だったら今からいきなりの指揮系統変更は、余計な混乱を招く可能性がありますの、それに伝令の時間も惜しいわ。」
「…確かにそうだな、しかし伝令についでは問題ない、ここは激戦区だ、思念伝達ができる精神系能力者が数名も配給している。」
なに!?そんな超能力もあるのか!?マジで便利だな、それなら即時の情報伝達もある程度できるじゃないか?こりゃ情報戦も大事だな。
「城主さん、もっと簡単な方法があります。」
「それは?」
「城主さんはいつも通り、指揮権を握ってください、そしてこれからは、私の命令をそのまま通達してれば事が足りますわ。」
「…なるほど、色々な面倒事も省けたな。」
「ああ、その手があったか、いいだろ、城主よ、これでいこう。」
「わかった。」
「では城主さん、まずは援軍要請を取り消しましょう。」
「はあ!?」
「どうせ間に合わないでしょう?各地からバラバラに来ても各個撃破されるだけですよ?」
「しかし…」
「死ぬのならもっと価値のある死に方をしましょう。」
「……わかった。」
「ねえ城主さん、この地図だけではなにもわからないわ、全体を見渡せる所ない?」
「ああ、監視塔がある、付いて来てくれ。」
こうして、望まない戦争に巻き込まれてしまった、結局、戦争を避けることができなかった。
千月の任務とうちの目的だけを達成し、その他は一切関わりたくないといううちの目論見も、ここで全て破綻した。
千月は一体どうするつもりだ?全然わからん、しかし千月のことだ、きっとなにかの理由があるはずだ、うちは…所詮その程度の人間か?
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