1013 超加速

 扉から出ると、なんか地球人のSF映画から出てきた、ロボットみたいな機械がそこにあった。


 高さは屋根くらい、約250センチ。


 円筒状の頭部の中央には、一つだけだが目みたいな赤外線カメラが光ってる。


 胴体も円筒状、明らかに有人操作の構造、正面には出入り口がない、操縦席のドアは多分背後にいるだろう。


 左腕は掌が無く、代わりに火炎放射器みたいな銃器が付いてる、右腕は普通の掌、汎用機械腕のようだ。


 両肩の上に小型のガトリングみたいな砲座が付いてる、全周回転できるような構造だ。


 上半身は人間みたいな形だが、下半身は…四輪車?


 オフィスチェアみたいな形だ、ただし普通の車輪ではなく、ボール状の構造だ、全方向に移動できるらしい。


 全体的なデザインは、一言でいえば、滑稽だ。



「わあーー、ははっ!ロボットだ、かっこいい!」


《お前はなにものだ!》


 お?喋った、しかも氷人語だ。


「え?いーちゃんこいつなに言ってんの?」


『氷人語だ、多分イブもすぐなんとかしてあげるだろう。』


 だってイブ・システムの初期設計は氷人だし。


《答えろ!》


 小さい男の子の声だ、しかしこいつ、スピーカーの音量が全開してないか?結構煩いぞ、耳障りだ。


「…ねえいーちゃん、こいつ子供じゃん?音大きすぎ、なんとかして…」


《俺は子供じゃねえ!!》


『おい!迂闊に喋るんじゃない、その機体多分通訳システムが付いてるんだぞ!』


「…………」


《おまえ、何者だ、どうして俺達の和平シンポルがわかるんだ?》


「えっと、なぜでしょうね?へへっ。」


 へへっ、じゃねえよ!!何やってんだ!?


《てめえ!俺を愚弄する気か!?》


「そんなことないよ?」


 イブのサポートが発動したようだ、綺麗な氷人語だな、千月のやつ。


《てめえ、外側から入った地球人だろう?どうするつもりだ?和平シンポルの事はどこで聞いてるんだ?名前はなんだ?答えろ!》


『千月、うちの言う事を…』


「てめえてめえって、アンタ子供でしょう?年長者にたいしての礼儀というものすら知らないの?」


『ああ!?おい!勝手に喋るんじゃない!』


 この喋り方、そして妙に興奮してる、まさか、また人格切り替わったのか!?


《な…なんだと…?》


「あと他人の名前を問う前に、まず自分から名乗るのが礼儀でしょう?アンタみたいな小僧には教えたくないけどね、まあ私のことお姉様と呼べば、考えなくもないけど?くくくっ。」


 …………はっ!?うち、軽く気絶したらしいぞ?


《てっめえ…ぶっ殺してやる!!》


「かかってこい!ですわ、はっはっは!」


 がああああーーー!!ち、千月!!てめえは一体なんで事を!!


 や、ヤバすぎる!こいつ、いきなり全身の武器が千月に向かってる!


《蜂の巣にしてやる!!》


 あ、ああああーー!



 ブーーーー


 ダダダダダダーーー



 いきなり発砲された!し、死ぬ……え?


「おいしょっと!やっほー!そらよっと!」


 ち、千月のやつ…ガトリングの弾幕の真ん中に…全弾…回避しただと…?こんな、10メートルもない距離で!?


「な!なにが起こった!?ああ!」


 ヤバい、湧にいがまだ近くにいる!



 ダダダダダダーーー



《え……?バ、バカな……。》


 化け物みたいな動態視力と反射速度だ…かすり傷すら負わせていないとは…道理であのビームも避けられるんだ。


「はははっ!無駄無駄だわ!」


『千月!遊んでないで、人がない所へ誘導しろ!』


 ドロンーーーー


 ああ!うちらの部屋が、いやいや牢屋が倒壊したぞ!


「湧にい!みんなに避難誘導を!こいつは私がなんとかしてあげるわ!」


「あ、ああ、わかった。」


《てっめえええぇぇぇ!!》


「さあ付いてらっしゃい、坊やー。」


 わあーー!千月は一体どうしたんだ!?こんなの、マジで別人だ!



 千月は、倒壊した牢屋から一気に駆け出し、うちらが来る海岸に目指したようだ。


 とんでもないスピードだ、周りのものは高速で通り過ぎていく、まるで飛んでいるみたいだ、これは一体どういうことだ?


『ち、千月!この走りはなんだ!?前の運動テストではこんな速度が出ていないはずだ!』


「さあ?どうしてでしょうね?まあどうでもいっか。」


 よくねえよ!!


「到着ぅ!」


 5秒だ、5秒だけで、破壊されたボートの側に…この前ここからあの牢屋まで歩いた時、5分くらいかかったぞ?500メートルくらいの距離が、5秒台…とんでもない新記録だ……フラッシュもどきか!


《ま、待ちやがれ!!》


 ああ…あいつ、まだあんな遠い所に…


『千月、とにかくどうにかしてあいつの動きを止めろ、もうここまでやったら反撃するしかないんだ、じゃないと本当に殺されるぞ。』


「武器持ってないよ?」


 くそー!どうにかできないのか!



 ……結局20秒くらい待つことになった。


《て、てめえ!外側の人間も超能力があるのか!?聞いてねえぞ!》


 ……も?超能力?


《質問に答えろ!じゃないとぶっ殺してやるぞ!》


 いやいやさっきからぶっ殺すつもりだろうが!


「はっはっは!できるものならやってみ?その亀並みな遅足のロボットがなにができるんだ?へへっ!」


 …………はっ!?うち、また軽く気絶したらしいぞ!?


『おまえ!さっきからどうしてあいつを挑発してるんだ!?』


《な…俺の事を侮辱するだけでなく、俺達が苦労して作った機体までも侮辱するとは…》


 へ?胴体正面が開いた、中には…6基の40mm口径の砲身が突き出し…まさかグレネードランチャーか!?


《絶対に、ぶっ殺してやるんだ!!》


 ヤバい、こんな時間、こんな浜辺、照明は月の光しかない、ぼんやりしか見えない状態でどうやって回避するんだ!?


 いや、グレネード自体では千月にとって造作もないはずだが、流石に爆発の破片と爆風は回避できないだろう?


「仕方ない人ね、無駄だっといってんじゃん?」


 はあ?どこからそんな自信が?


 千月は、いきなり陸上競技選手のクラウチングスタートのポーズを取ったあと、目を閉じた。


 ええ?一体何をするつもり?目を閉じるなんて自殺する気……え?


 一瞬、視界が、開いた。


 …これは…違う、見えたじゃない、感じたのだ、100メートルくらいの範囲内のものの形と、動きも、空気の振動すらも…まるで、ソナーみたいな感じだ。


 原理がすぐわかった、こんな機能があったのか、しかし千月のやつどうやって発見したんだ?


 そして何故か…今更、体が、どんどん疼くなっていく…



 ポンッポンッポンッポンッポンッポンッ



 連射!?リボルバー式か!


 や、ヤバい、見えることができても爆発は避けられん……な、なんだ!?



 時間が……止まった。



 時間が止まった瞬間、千月は走り出した、あのロボットに向かって、途中左手は何かをキャッチした、そしてその手の中にある何かを、ロボットの胴体の真下に投げた。


 そして、千月はロボットの横に通り過ぎたあと、止まった時間が元に戻った。


 連続の爆発音、千月が元にいる位置と、ロボットの…真下も。


 ああ、この時間停止の原理もすぐわかった、実は停止ではなく、体全体の反応速度が極限まで上昇し、体感的に時間の流れがとんでもなく加速させ、相対的に外部の時間の流れが停止に近い遅くなった。


 ロボットの足の爆発は、走ったあと、射出したグレネードが空中から掴み、ロボットの足に投げたものだ。


 爆発したロボットは、胴体だけが切り離し、空中へと飛んだ、なるほど自動脱出装置だな、捨てセリフすら残ることなく、遠く行っちゃった。


 あいつにとって突然過ぎるだろう、外の人間にとっては、千月は文字通りの瞬間移動だ、多分なにが起こったかすら理解してないだろうな。



 イブが……フル稼働した。


 移動距離が、約100メートル、所要時間は、0.03秒……。


 しかし、原理がわかった瞬間、うちらはどんな結果を待つのか、それもわかるようになったのだ。



 ああ…そう思っている間に…意識が……

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