0004 運命の出会い


 ……うん?意識が戻った。


 また、眠らされた、何も説明してくれなかった、強引に、眠らされた。


 うちの扱いは、本当にただの機械扱いになったぞ?うちはこれでも元人間だろうが!


 しかし今回の起動は変だな、何か、違う?



『生体エネルギー転換プログラム起動……完了しました。』


 生体エネルギー?転換?何の事だ?



『脳機能コネクトプログラム起動……成功しました』


 え?ええ?一体何を、初めて見たコマンドだ、しかも勝手に動いたぞ?



『五感の即時処理、伝達及び同期化プログラム起動……一部失敗、原因不明。』


 失敗だと?何を失敗したのか、コマンドの名前だけでは全然わからんぞ?



『人格システム起動……成功しました。』


 そりゃよかった、まもなく外の様子がわかるだろう。



『人格システムとデータベース及びメインシステム、接続します……アクセス権限が足りなかったため、一部失敗しました。』


 ああ、やっと見たことあるコマンドが出た、しかし先日もこれをやってみたが、結果は同じだった。


 内蔵のデータベース、つまり世界資料庫と接続すれば、何かわかるかもしれないと思うが、相変わらず封鎖されたようだ。


 まあ引き出せないのは一部の国家機密だけだし、欲しい情報が見えないが、普段であれば問題ないだろう。



『一部失敗を除き、全システムを起動します……完了しました。』


 え?自動的に全部起動した?どういうことだ?手動じゃないと出来ないはずじゃ…



 一瞬、うちの世界が、光った。



 いつもの、狭い範囲しか見えないカメラと違って、今回はよく見えるようになった。


 輝く太陽、青い空、緑の植木、今まで見たものよりずっと真実味がある。


 ここは…どこかの庭のようだ。


 そして、甘い空気、暖かい陽光……え?


 感覚が、五感が!


 呼吸を感じた、衣服の摩擦も感じた、肩がちょっと凝り、胸がキツい、頭痛い。


 一体…何が起こったんだ?


 これはまるで……まるで人体の感覚だ!



『…何が起こった?』


「…え?ええ!?ちょ、ちょっと!私の頭から声が!声が聞きました!」


 うん?若い女性の声だ。


「おお!?遂に目が覚めたようですね!」


「せ…成功だ…やったぞ!」


「「やった!」」


 な、なんだ?何を騒いてるんだ?


 白いコートのやついっぱい、うちに囲んて何をしている?


 あと、いつから日本語で喋ってるんだ?この前はロシア語じゃないか?


 訳が分からないが、合わせるか。


「眠り姫はやっと起きたか、実験は成功だ。」


 あ、赤い髪のやつもいる、見ただけでも無性に腹が立つ。


『うちは眠り姫なんかじゃない!』


「眠り姫じゃないんだって。」


「ははっ、まあ起こしたのは王子ではありませんからね。」


『そんな事はどうでもいい、何が起こったか説明しろよ。』


「説明を求めたいようです…しかしこれは本当に、声が頭の中に響くような感じですね、ちょっと怖い。」


「ははっ、予想通りです、手術前も言ったでしょう?すぐ慣れますよ。」


 手術?何のことだ?


『おい!無視すんな!』


「あ、いきなり怒った、氷人って、みんなこんな感じですか?」


「いや、この方は特別だと思います、大抵の氷人はかなり穏やかな性格です、この方だけは何故か乱暴で短気で攻撃的な性格、しかも短絡的、氷人の中でもかなりのレアケースですね。」


『てめえ!核弾頭をぶち込むぞ!灰にしてやる!』


「わーー、超怒ったっぽい、あなたに核弾頭をぶち込みたいだって、灰にしてやるって…こわ…」


「ははっ、怖い怖い、今はできませんが、昔ネットワークとの接続実験では、本当にできるらしいですよ。」


 くそーー!いつかぶちのめす!


「まあ冗談はこれくらいにして、そろそろお二人に説明しましょうか、どうぞ中へ。」


「わかりました。」


「皆さんもお疲れ様、興奮するのはわかるが、まだ仕事はいっぱい残ってる、後はこっちに任せよう、皆さんは自分の仕事に戻りたまえ。」


 赤毛はそう言った後、研究員達は散開した、なるほど、赤毛はここのリーダーだろうな。


 うん、こいつのことは赤毛で呼ぼう。


 うん?体が動いた…ええ?勝手に動いた!


 まさか…うちは、誰かの体の中に居るのか!?


 なにもかも感じる、まるで自分の体の様に、ただ違うのは、うちのいうことを利かない。


 こんな事をして、一体何のために?



「頭はまだ痛い?」


 ここは…研究所の休憩室のようだな、赤毛と千月以外、誰もいない。


「ちょっとだけ、もう結構経ったから、もう大丈夫だと思います。」


「そうか、それでは説明に入りましょう。」


 結構経ったのか?


 ……内蔵時計を確認すると、前回の眠りから、丁度1週間経ったな。



 それから、赤毛から説明を受けた。


 結構長いので、要約だけを整理しよう。



 俄には信じ難いことに、どうやらうちは、人間の脳の中に設置され、その脳とリンクしているそうだ。


 この人の脳は、量子コンピューターであるうちの処理速度にサポートされ、動態視力、体の反射速度、思考速度など、全部強化された。


 人間の脳を強化すると、ほぼ全ての身体機能が強化されるだろう。


 ただ元々鍛錬したことのない、弱い体なので、いきなり数千倍の反射神経を得て、普通では持たないだろうな。


 その問題も考慮して、普段は人間の脳に合わせて、数千分の一のスペックでスキップされたらしい。


 必要になった時、この人の必要分に合わせて解放されるらしい、しかも無意識でできるようになる。


 理屈はわからないが、つまりこの人は、スーパーマンもどきになった、まあ飛べないし、体も弱いしな。


 普段の時は、うちの人格で助言などを行う予定だ、量子コンピューターの力がなくても、電子人格であるうちは、データベースから何でもこの人に知らせる事ができる。


 つまり、この人を得たのは、限定的だが量子コンピューターに近い脳回転速度と、うち経由の全世界の知識。


 聞くだけなら、ゾクゾクするだろう、しかし自分の事になると、結構怖いな。


 怖いのは、こういう事態ではなく、地球人の探求心、欲望、それと恐るべき科学の進化スピード。


 しかし面倒なことに、うちはこの人の体をコントロールすることは出来ない、声帯もな、だからうちの言葉はこの人以外聞こえない、この人に頼ってうちの意志を他人に伝達するしかない。


 あとこの人の五感も感じるが、さっきの失敗メッセージで不完全なものになったらしい、原因は赤毛もわからない、調整の時間もないっと言って、放置するつもり、まあ大した問題ではないようで、大丈夫だろう。



 いつのまにか日が落ちた。


「正式に任務に付くまではあと数日の猶予があります、その間はここで訓練という名のデータ収集を行う予定です。」


「ええーーー!?まさか、軍人みたいな訓練をするんですか!?」


「いえいえ、そこまでハードなものではありません、単に体を動き、システムの力はどこまで引き出せるか、接続に問題はないのか、軽いテストだけです。」


 なるほど、確かに重要な事だ。


「では少尉、今日はまず休める方がいいでしょう、特に相棒の方はまだ混乱しているようですね、お互い、色々と相談する方がいいと思います。」


 しかし一体何のために?さっき問いかけても答えてくれない、この人もうちと同じ、詳しい事はわからないようだ。

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