31話 夏の思い出
「はぁぁ……私はお昼寝するから、皆また遊んでおいでぇ〜」
お昼を食べた後、南々子さんはそう言ってシートに横になってお昼寝モードみたいだ。
俺は何というか、最初はタイムリミットに怯えていたが、決まってしまえば逆に吹っ切れた気持ちになっていた。
「これから色々あると思うけど、今日ぐらいは忘れて皆で楽しくやろう!」
そう宣言すると、一瞬皆呆気に取られていたが、櫻と凛は優しく微笑んで、
「子供の時遊んだこーくんみたい」
「付き合い始めた時の孝輝みたい」
言い終えると二人は睨み合い火花を散らしている……俺の話、聞いてるのか……?
「よく言った孝輝、それでこそ我が
凛々しい表情で雄也はまた何かを出し始めた。
「これは南々子のボート型フロートだ、これを孝輝がーー」
「やめろ、こんなの人力で膨らませたらホントに酸欠で倒れるわ!」
コイツは……俺を殺す気か。
「そしたら私が膝枕してあげるね」
「え……水着で膝枕……?」
「こーくん!!」
思わず想像してしまった俺を凛が正気に戻す。
「じゃあ俺がやるか」
「久保君にはしてあげないけどね」
「わかった、膝じゃなくて胸でもいいぞ」
「そのまま埋めてあげるね」
辛味の効いたトークも程々に、施設にある空気入れでフロートを膨らませた。 思えばビーチボールもこれでやればよかったのでは……。
「よし、凛乗れ」
「な、なんで?」
「一番軽い凛でまず安全性を確かめる」
「じゃあ、こーくんも……」
「お一人でどうぞ!」
櫻が凛を抱き上げてフロートに乗せる……結構、力あるんだな。 まあ凛軽そうだから。
「か、怪力女!」
「小学生抱っこするのと同じだし」
そして凛を乗せて海に入っていった。 三人でフロートに掴まりながら、俺の腰ぐらいまでの水位になった時。
「もう少し奥まで行ってみるか」
雄也に促されて進んでいくと、
「結構来たね」
そう言う櫻を見ると、もう櫻は鎖骨の辺りまで海に浸かっていた。
「もういいだろ雄也」
「そうだな」
「もう夏目さんじゃ足つかないね」
「泳げるし!」
頬を膨らませる凛を見て、皆楽しそうに笑っている。
「よし、喜多川乗ってみろ」
「ええ!?」
雄也の提案に驚く櫻。
「あんな大っきいの乗ったら沈んじゃうよ、ねーこーくん」
凛はフロートの左側を持っている俺に向き、顔を近づけてくる。
「そ、その言い方ムカつくんだけど!」
櫻の不満の声も聞く耳を持たない凛は、俺に顔を近づけたまま薄っすらと頬を染めて、
「こーくん」
「な、なに?」
蕩ける様な艶っぽい顔の凛に、吸い込まれそうになる……。
「ちゅーしていい?」
「え……」
凛の柔らかそうな唇が近づいて来た時、
「キャッ!?」
フロートが傾き、凛が俺の向かいの櫻の方に体を取られる。
「この抜け駆けロリ!」
「なに? 戦いは始まってるんだからね!」
「よし喜多川、俺達もちゅーしよう」
「しない! 私も乗る!」
櫻は左手で近寄る雄也の顔を抑えてフロートに上がろうとする。
「わっ! 落ちちゃうって!」
「私だってまだしてないだからね!」
フロートに上がった櫻、女の子二人ぐらいでは沈まないみたいだな。
「その私・だ・っ・て・ってやめてよね! 今は対等の立場なんだから!」
「だからって私の前でキスしようとする!?」
……やれやれ、趣旨を聞いてたのかこの二人は。
「今日は、楽しくな!!」
「「キャッ!」」
俺は思い切りフロートを傾けて、二人共海に落として頭を冷やしてやった。
「こーくん溺れちゃう!」
足のつかない凛が俺にしがみ付く。
「泳げるでしょ!?」
「喜多川大丈夫か、俺に掴まれ」
「足つくから!」
「はははは! まだ頭冷えないみたいだな」
四人で笑い合って波に揺られる。 こんな時間がまた来るんだろうか。
これから其々の分かれ道があるだろうが、今日の日を俺は忘れないだろう。
来年も、再来年も、夏はやって来るのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます