21話 先生のお悩み相談室
色々と遠回りはしたが、やっと本題に入り雄也先生のお悩み相談室が始まった。
「話を聞くと、孝輝の中で少なからず凛の存在も軽視できなくなっているみたいだな」
「まぁ、そうかな……」
「その元彼は置いといて、今お前の中で二人のパワーバランスを知りたい所だが」
……そうなりますか、いや、それはそうなんだが。
「その、明確に数値には表せないと言うか……」
「そうか、では喜多川と凛が溺れているとしてーー」
「やめろ。 そんな古典的な方法は」
「冗談だ」
「選択肢は三つ」
雄也は三本の指を立てた。
「そ、そんなにあるのか?」
「一つ、元彼と争って喜多川を奪う。二つ、 喜多川を捨ててこーくんとして凛と付き合う」
「雄也、謝っただろ、こーくんて言うな」
……根に持ってやがるな。
「三つ目はなんだよ?」
「両方頂く」
「お、お前な、櫻もりんも同じクラスなんだぞ!? そんな事になったら俺は学校でどうすりゃいいんだよ?」
恐ろしい案を出しやがって……。
それでなくても俺はクラスメイトから良く思われていないらしいからな。
「実は、四つ目もあるんだ。 これはクラスの男子の総意だと思うが」
「何だよ、なんか嫌な予感がするんだが」
「お前の様な優柔不断な奴は両方失ってしまえ、だ」
「…………」
……まぁ、逆の立場で俺が櫻を好きなのにそいつを櫻が好きで、凛もそいつが好きで、そいつはどっちとも決め兼ねてフラフラしていたら、こっちは気分が悪いよな。
ーーーーそれが俺か……。
嫌われても仕方ないな……。あれ、俺ここに何しに来たんだっけ、余計病んでないか?
「だかな孝輝、俺はお前のお陰で恋愛ってものも面白いかも知れないと思ってきたよ」
「雄也……」
「喜多川も凛も本気なら、その気持ちを受けて悩むのは当然だろう。 二人ともいい女だと思うしな」
ーーーー
「凛や元彼の事があって気不味くても、それでも喜多川が気になるならぶつかってみるしかないんじゃないか?」
「そう……だよな」
「二人が本気ならお前も本気で向かい合わなければ答えは出ない。 悩んでないで行動しろよ」
「……ああ、やっぱりお前と話せて良かったよ」
結局、最後は助けてくれるんだな、雄也は。
同級生に相談していると言うよりは、人生の先輩と話した様な気分だが……。
「最悪どっちも居なくなってお前が絶望した時は、また南々子の飯でも食いに来いよ」
「それは食いたいが、出来ればそうはなりたくないな……」
最悪の展開、それはかなり落ち込むな……。
雄也、母親を南々子って言うなよ。 でもあんな若い女性、ちょっとお袋とは言いにくいよな……。
雄也先生から有難いお言葉を頂き、俺は久保邸を後にした。
よし、何しろ櫻とちゃんと話をしよう。このまま悩んでいても仕方がない、行動あるのみだ。
そう決心をして駅まで歩いていると、前から小柄な明るい髪のポニーテールの女の子が歩いて来た。
「え、こーくん?」
……神様は意地悪だ。 決心を固めた途端にこれだ。
「りん、何でここに?」
「だって近所だもん」
うん。雄也と幼馴染だもんな。考えれば分かるだろ
真っ白な透き通る肌に明るい髪が映える。 それに白いワンピースがとても似合っている。
少しつり目だし、これで耳が尖っていたら完全にエルフだな。
駄目だ、凛への気持ちを意識してから余計に可愛く見える。
「こーくんこそどうしたの?」
「いや、ちょっと雄也の家に遊びに行ってて」
そう言えば、凛を見てたら雄也が付き合わされた『こーくんごっこ』を思い出した。
凛、雄也には謝っておいたからな。
「なんだ、会いに来てくれたのかと思った」
「え、いや……家知らないし」
凛が下を向いて拗ねた様な仕草をしたので、俺は慌てて言い訳している様な物言いになってしまった。
凛はそんな俺を見て、優しく微笑みながら、
「冗談だよ。 そんなに自惚れてないから」
柔らかな凛の口調に安堵し、落ち着きを取り戻した。
「りんはどこか行くのか?」
「うん。 地元の女の子と約束してて」
「そうか」
地元の友達か、そうだよな。 俺と違って凛は実家から通学してるんだからな。
「あのね」
「ん?」
「先週あんな事があって、色々こーくんは悩んでると思うけど……」
櫻が元彼と一緒にいて、櫻と言い合いしてしまった事か。 その場に凛もいたしな。
「私はこーくんと夏の思い出作りたいし、喜多川さんの事で悩んでて会えないなんて絶対嫌だから、遠慮しないでこーくんを誘うからね!」
力強く俺に言い放つ凛。 だがその瞳はどこか不安そうに俺に映った。 いや、相手任せじゃ駄目だ。 行動あるのみ、そうだよな
「いや、俺の方からも誘うよ」
「え……ほ、ホント?」
「ああ」
俺の言葉に一瞬時間を止めた様だった凛は、その言葉を確かめる様に聴き返してきた。
「きっと、楽しい夏休みになるね。 あんまり放っておいたら家まで行っちゃうからね! じゃあ、またね」
「ああ、迷子になるなよ」
俺が揶揄って言うと、「その時はまた見つけてね」そう言って跳ねる様な笑顔で凛は俺とすれ違って行った。
その後ろ姿を暫く見ていると、凛は振り返り俺の視線に気付き手を振ってきた。
俺は後ろ姿を見ていたのに気付かれて、少し照れ臭くなって小さく手を振り返した。
きっと楽しい夏休みになる。
それは自分次第だぞ、孝輝。
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