12話 お外で遊ぼう
久し振りに放課後を櫻と二人、俺達は公園のベンチの前で落ち合った。付き合っていた頃は何度もあった事だが、今日はお互いに新鮮な気持ちでいると思う。それは久し振りだと言う事だけではなく、始め直した俺達の、自分を無理に抑え込まなくなった櫻と初めての放課後デートだからだ。
「取り敢えず座ろうか」
「うん」
俺がそう促して、二人でベンチに腰を下ろした。
夏の風が櫻の甘い香りを運んできて、俺はふと隣の櫻に顔を向ける。
その横顔は楽しそうにはにかんでいて、少し頬は赤らんでいた。そのまま見つめていると、櫻もちらとこちらを見て、直ぐに目を逸らし、今度はさっきより顔を紅潮させて俯いてしまう。
……何だ?久し振りとは言え、ちょっと意識し過ぎじゃないか?
そう思って声を掛けてみる。
「どうしたんだ?」
「え?う、うん。ちょっと……この間の事、思い出しちゃって……」
「ん?」
「も、もう!……ぎゅって、してくれたの」
そういう事か。俺が風邪を引いて、夏目さんが部屋まで来て看病してくれた件が櫻にバレてしまい、怒る櫻を抱きしめた勢いで有耶無耶に乗り切った、と言う力業の事だ。
俺は必死だったから、そんな甘い記憶では無いんだが、櫻には違う思い出になっていたのか。まあ、確かにあんな風に櫻を抱きしめて、歯が浮く様な台詞を言った事なんて無かったからな。
それでさっきから顔を見るだけであんなに照れていたのか。
「そうだったな。でも、今日は体調も良いし、久し振りに一緒の放課後デートだ」
「うん、そうだね」
そう言うと、櫻は微笑みながら返事をしてくれた。よし、先ずは、
「取り敢えず昼まだだし、何か食べようか?櫻は何食べたい?」
「えーと、孝輝は?ーーあ。 ち、違うよ!?」
「は?」
「い、今のはまた言いなりになろうとしたんじゃなくて!そ、そもそも私はそう言うの相手に任せるタイプと言うか、孝輝と一緒ならどこでも嬉しいし……変に、思わないで……」
早口に手振りを付けて、慌てた様子で言い訳をする櫻は大分狼狽えていた。俺達が別れた理由、また同じ事をしていると思われるのが怖かったのだろう。馬鹿な俺が、『人形』。なんてとんでもない失礼な事を言ってしまったのを気にしているのは無理もない。
「そんな事思わないよ。間違いなく俺の隣にいるのは喜多川櫻本人だって感じてる。前より、ずっと魅力的な女の子だ」
「……前より悪いトコロもありますが」
小さい声で、照れながら櫻は言葉を零した。
「さ、行こう」
「うん」
俺達は立ち上がり、公園を後にした。
それから最寄りのファストフード店に入り、二人で食べながら会話をしている。
「今朝、教室で櫻の席まで話に行ったの、友達に何か言われた?」
「うん。みんなびっくりしてた。私も驚いたけど。休み中会ったのって聞かれて、ヨリ戻したのって」
「そうか」
まあ、そうなるとは思ったけれど。何しろ最近の俺はゴシップの発信源になってしまっているからな……。
「会ったけど、別にまた付き合い始めた訳じゃないって言ったよ……その後も色々聞かれて、私は、また、戻れたらって……」
「そ、そっか」
今日の自分の行動には後悔は無いが、櫻や、夏目さんもきっと友達から色々聞かれているんだな。当然か。
「でも、今度はちゃんと私で好きになってもらいたいから、そんなに急いでも仕方ないし、孝輝が教室で話し掛けてくれたのは嬉しかったから、大丈夫だよ?」
「ああ、そう言ってもらえると、助かると言うか、ありがとう」
どうも二人して歯切れが悪い、微妙な空気になっているな……。
「それに、今回私には夏目さん《ライバル》もいるしね」
目を細めて恨めしそうに俺を見てくる櫻。
……確かに夏目さんを全く気にしていない、と言えば嘘になる様な、でも、何か違う意味で、夏目さんが気になっている自分もいるんだよな。兎に角そのチクチクと刺さる視線をやめて頂きたい……。
「ん、いや……櫻、この後どこ行く?」
「ごまかしたな」
頬を膨らませて不満を訴える櫻。これが些細な理由なら、そんな不貞腐れるなよ、で済むが。そうはいかない、よな。
「じゃあ、孝輝の部屋行きたい」
「それは違うだろ、せっかくーー」
「行きたい所聞いたよね、それにいつも自分が決めるの嫌がってたじゃん。私に決めて欲しかったんでしょ?はい、孝輝の部屋に行きたいです!」
……ここでそれ出します?
駄目だ、最近俺の部屋がフリーパスになって来ているぞ。良くない。
「櫻とこうしているのも久し振りなんだし、外で動こうよ」
「……ヤダ」
く……手強い。昔の櫻なら何でも二つ返事だったのに、まあそれが嫌で別れたんだが。本物の喜多川櫻だとこうも思い通りにいかないのか……。
俺は早まってしまったのか、いや、そんな訳ない。前の櫻とじゃこんな悩める事すら無かった。これが本来の恋愛、の筈。
どうするか……そうだ!
「夏休みになったら一緒にプールとか海に行きたいからさ、櫻の水着を見に行こうよ」
「…………」
無言でまたも目を細めて見てくる櫻。簡単には納得してくれない様だ。そもそも急いでも仕方ないと言ったのは櫻なのに……。
夏目さんの話が出た途端に部屋に来たいと急変した。
もう一押し、頑張れ俺。
「櫻の水着姿、きっと可愛いだろうな、見たいなあ」
「も、もう、仕方ないなぁ……孝輝のエッチ……」
「ははは……」
何だろう、この気持ち。
何だか納得出来ない自分がいるが。
でもまあ、実際見たい気持ちもあるし、ここは男が広い心でいなくてはな。甘んじて受けようではないか。
そして俺達はファストフードを出て、目的の場所へ移動する事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます