宇宙の蚤の市

八ツ波ウミエラ

フリフリちゃん

「フリフリちゃんは蚤です。宇宙蚤です。宇宙蚤なので地球蚤よりかわいいです」


 あ、変なお客さん来たな、と思った。プコ星は辺境の星。こんなところの蚤の市に来るお客さんはやっぱり変わっている。でも、蚤の市で蚤と出会うなんて面白いな、とも思った。地球人の私からしたら、蚤というよりは、蛍光ピンクのぷよぷよした1メートルのスライムだけれども。


「フリフリちゃんさん、こんにちは。地球の品物を売っているので、よかったらいろいろと見ていって下さいね」

「フリフリちゃんは、これが気になるのです。これは一体、何をする物ですか?」


 フリフリちゃんは、ヘアピンを指差した。指じゃなくて、触手だったけれど。


「これは、ヘアピンといって頭部の毛に着けるアクセサリーです」


 それを聞いたフリフリちゃんの蛍光ピンクの体は、一瞬で蛍光水色になった。


「フリフリちゃんには、頭部の毛が無いのです。だから、これは着けられないのです……」


 ぶるぶると震えている。思い悩んでいるようだ。


「でも!!かわいいので、買います。頭部の毛に着けるのではなく、体に埋め込むことにします」


 ええっ。い、痛そうだ。困惑した私をおいてけぼりにして、フリフリちゃんは続ける。


「フリフリちゃんは自由な蚤なのです。地球のルールには縛られないのです。体に埋め込んだへあぴんは、きっときらきらしてかわいいのです。かわいいは、ルールより強いのです。たとえそれで地球の刑務所に入ることになっても、フリフリちゃんは構わないのです」


 蛍光水色の体が、また蛍光ピンクに戻る。フリフリちゃんから、強い意思を感じる。フリフリちゃんにとって、かわいいこそがルールなんだな、と思った。


「お買い上げありがとうございます。でも、ヘアピンをちょっと変わった使い方をしたぐらいじゃ、地球の刑務所には入れませんよ。心配しなくても大丈夫です」 


「そうですか、それはよかったです。あの、フリフリちゃんは、これも買います」


 今度は、指輪に興味を持ったようだ。


「お買い上げありがとうございます。つかぬことをお聞きしますが、こちらの指輪はどのようにお使いになられるのでしょうか?」


 フリフリちゃんに触手はあれど、指は無い。やっぱり、体に埋め込むのだろうか。金銭のやり取りをしながら、つい、好奇心から聞いてしまった。


「これは、フリフリちゃんが飼っているテェリー星人のリリちゃんの首輪にするのです」


 そう言い残して、フリフリちゃんは走り去ってしまった。


 テェリー星人は、地球で言うところのイエティと妖精を混ぜ合わせた外見をしている。15センチメートルほどの白い毛むくじゃらに、蝶の羽が生えているのだ。大変かわいらしく、闇では高い金額で取引されている。密猟者の餌食にされ、その数は年々減少。テェリー星人を飼育することは、全ての星の法律で禁じられている。


 自分のルールのために、世界のルールを破る人がいる。どこの星に行っても、それだけは変わらない。そう思いながら、宇宙警察に通報した。

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宇宙の蚤の市 八ツ波ウミエラ @oiwai

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