九代頼光の怪異譚
雉尾夏樹
第1譚 津雲第四トンネル①
肝試し。
墓場や廃墟などの薄気味悪いところや心霊スポットへ出向き、自分たちの度胸を試すイベントである。
これに行くような輩は全員考えなしのバカかもしくは調子に乗っているアホとしか考えられない。もしこれから行こうとしている人がいるならぜひ考えを改めてほしいと私は思う。
なぜなら行っても何もいいことはなく後悔するだけだ、蚊に刺されるだけだ、転んでひどめのすり傷をつくるだけだ。そして、自分のことが少し嫌いになるだけだ。
もう察しているかもしれないけど、私こと
今日は3学期の締めくくりの日、終業式も終わり今はこの高校1年生という時期の最後ということもあり、担任から「受験勉強は2年生からが本番だ。」というのが主題のありがたく長ったらしいお言葉を頂戴していた。しかしこれをまともに聞いている生徒ははっきり言ってそうそういないだろうし、おそらく担任自体もそこまで熱意に満ちているわけではないのだろう。しかもこのクラスは、仲自体は悪くはなかったものの特別良いというものでもなかったためみんなの興味はこれから始まる春休みや新年度のクラスへの期待ぐらいにしか向けられてないだろう。
なのでみんなは真面目に聞いているふうにしていても実際はうわの空なのだ。かくいう私も正直聞いている余裕がなかったため油断していた。そう、油断していたのだ。
「稲綱さん、このホームルームが終わったら司書室に来てくれ。」
だからホームルームの終わりにて私の担任、
彼はいわゆる「やさしい先生」であり、誰にでも物腰を柔らかく接するため人気はある方の教師ではあるが、年齢も近いことからかしばしば一部の生徒に舐めかかったような態度を取られることもある優男、というのがもっぱらの評価の男である。
「そっかぁー咲もとうとうオトコを知る年齢になっちゃったかぁー。」
なのでホームルームの終わりに隣の席の友人、
「いやいやないってありえないってだって教師と生徒だよ!?」
ただでさえ今は余裕が無いというのに担任との間によく分からない噂が出まわってしまうのはさすがに防ぎたい。
「えーそうかな?私クッシーけっこうアリだと思うよ?ほら、けっこう顔イケてるし。」
確かにその通りで、あの男は優男という評価さえ受けているものの年も若く、顔も頑張ったらアイドルか俳優にいそうなくらいに整ってはいるため、女子生徒からの人気は性格を差し引いても割とあるのだ。クッシーという愛称も一部の女子生徒から広まっていったものである。
「あーでも意外とあんな感じの草食系が実は裏ではヨロシクやってる可能性高いからねー。咲気をつけてね?世の男は全員心に獣を飼っているようなもんだからさ。」
「いやそういう問題じゃなくってさぁ……。あーもう時間だから行くね。」
それじゃあまた春休み中にね、と詩織に別れを告げ、私は逃げるように教室から出て行った。詩織のことはあれでけっこういい友人だと思ってはいるが、いかんせん恋愛脳、ひいてはおっさん並みの恋愛観の持ち主であることがあるのが玉に瑕だなと思う。だいたい知ったようなことを言っているが彼女だって彼氏いない=年齢の私とどっこいぐらいの恋愛経験しかないのによく言えるもんだと感心するくらいだ。
本当なら私の身に起こっている都合上こんな用件などバックれたくもあったが、私は先ほどの彼-九代頼光の今まで見せたことのない真剣な表情に思うところがあり、彼の待つ司書室に赴くことにした。
扉の2回ノックした後、どうぞーと間の抜けたような声が聞こえたため扉の向こうへと入った。中では辞書のように分厚い本を脇に抱えてガスコンロの前でお湯が沸くのを待つ九代の姿があった。
「いや悪いね稲綱さん急に呼び出しちゃって。あぁ、どうぞ座って座って。」と普段どおりの態度で彼は私に言った。促された通りに近くの椅子に座ると彼は寒いからね、と暖かいお茶が注がれたマグカップを私の前に置き、私の真正面に二者面談が如く椅子に腰掛けた。
「さて、君も辛そうだから単刀直入に聞くけど-稲綱さん、今取り憑かれているでしょ?」
この1年間ただの一度も見たことのない-正確には先ほど初めて見た彼の真剣な表情がそこにあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます