クラスのルール

ソーヘー

日直の仕事

俺は日直になるのが嫌だった。日誌を書くだけならまだいいんだが、黒板を消すのも教室の花瓶の水を替えたりするのも全て日直が行うからだ。俺は日直になりたくなかったが、その日はとうとうやってきた。


「山本、お前が今日の日直だ」


「はい...」


先生からホームルームの時間に日誌を受け取ると、俺は席に着いた。先生は出欠の確認と適当な朝の挨拶を終えると、チャイムが鳴り響くのと同時に教室を後にした。


「今日は欠席はいない...っと」


日直の朝は出欠の欄を埋めるところから始まる。僕は日誌を書いていると日直の面倒臭さを改めて実感した。


「日直!黒板‼︎」


「はい!今やります‼︎」


「日直!黒板‼︎」


「はい!今やります」


「日直!黒板‼︎」


「はい、今やります」


「日直!黒板‼︎」


「うん、今やる」


「日直!黒板‼︎」


「わかった、今やる」


「日直!黒板‼︎」


「わかったから...今やる」


「日直!掃除当番かわって‼︎」


「わかった、俺がやっとく」


色々あったが、無事に日直の仕事も残すところ最後の一つだった。


「あとは花瓶の水を替えるだけだな...」


帰りのホームルームも終わり一人になった教室で花瓶の水を替えようとしていると、後ろから一人の男子生徒が声を掛けた。


「日直、おつかれさん」


「吉田か...まだ帰ってなかったのか」


声を掛けてきた生徒は吉田だった。吉田とは家が近いのもあってか、よく一緒に帰ることが多いのだが...


「俺は今日は日直だから先に帰ってくれてもいいのに」


「あはは、なら手伝いに来た。それでいいか?」


「ふっ、それは助かる」


俺と吉田は花瓶の水を替え終えると、教室の戸締まりを確認して教室を出た。帰りの通学路、歩いているのは二人だけだった。おそらくほとんどの生徒が帰ったであろう通学路を俺と吉田は歩いていた。


「そういえば吉田って明日、日直だよな」


「あ〜、そういえばそうだった」


「日直って大変だよな。この仕事を毎日誰かがやっていると思うと気の毒になるよ...」


「まぁ...だけどクラスで決めたルールだし、毎日誰かがやってるんなら仕方がないよな」


普段は気にもならならい些細な仕事、それが日直というものだ。毎日その仕事は誰かがやっている、誰一人として文句を言わずに。

それはみんながやっているから、クラスで決めたルールだからだ。


「クラスのルールか...」


「ん?なにか言ったか」


「いや、なんでもない」


みんなで決めたクラスのルール。今まで誰も日直という仕事を放棄したことなんてない。それは、誰かが毎日やっている当たり前なことだから。

俺はそんなことを思いながら静かな通学路を歩いていた。


翌日、今日もいつもと同じようにホームルームの時間がやってきた。


「えっと...今日の日直は吉田だ」


「はーい」


今日もいつもと同じように、先生は出欠の確認と適当な挨拶を終えると、チャイムが鳴り響くのと同時に教室を後にした。


「やっぱり日直の仕事って面倒だわー」


吉田はそうは言っていても、ちゃんと日誌を書き始めた。俺も昨日は日直だったからわかる。日直の大変さを今は誰よりも知っている、

だから俺は心の底からこう思える。



吉田、日直がんばれよ。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クラスのルール ソーヘー @soheisousou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ