第18話 おかえり
日も沈み、すっかり暗くなった帰り道。
僕はいつも弟と歩いているその道を、今はもう一人の大切な人と歩いていた。
「ねぇ快人。私たち、どこに向かってるの?」
「家に帰るんだよ。理久が待ってる」
「そっか、そうだよね。理久には話しておかなきゃだもんね」
「そういうこと。それと…」
「なぁに?」
「いや、何でもない。着いたよ」
「…明かりついてなくない?本当に誰かいるの?」
「そのはずだけど…ほら、鍵開いてる」
そう言って僕は優姫の手を離し、先に家の中に入った。
「あ…待って快人、置いていかないで…」
そんな寂しそうな声を出さないでほしいな。
「快人?理久?二人ともどこにいるの?暗くてよく見えない。電気どこ?」
「大丈夫?今電気点けるよ」
そう言って僕は電灯のスイッチを押す。
ぱっと明かりがつくと同時に、そこにいるもう一人と同時に手に持っていたクラッカーを勢いよく鳴らすのだった。
「「誕生日、おめでとう!」」
「え?え…?何?何?」
優姫は何が起きたのかわからないといった顔をしていた。
「ははっ、なんだその顔。だらしないな」
「ここまで驚いてくれると仕掛けた甲斐があるよね」
僕と理久はぱぁんとハイタッチをする。
「いや、今日って…。あ、確かに私の誕生日だけど、二人とも、覚えてたの…?」
「いや…。恥ずかしながら、この間まで忘れてたよ」
たははと恥ずかしげに僕は頬を指で掻く。
「でもこの前思い出したんだ。思い出したきっかけはこれ」
僕は懐に持っていた一枚の紙を出す。
「え?何それ?」
「おいおい、お前こそ忘れたのか?お前が俺たちに渡した物じゃねーか」
「あ…!それ…!」
僕が出した紙。
それは幼い優姫が僕たちに渡したプロフィールカードだった。
「あの時は何だよこれって思ったけど…。とっといてよかったな。まさかこんな形で役に立つとは思わなかったぜ」
「そうだね。上手くいってよかった」
「しっかし、改めてよく見てみると…。大したこと書いてねーよな。なんで女子ってこういうの好きなんだかわかんねー」
「……」
「優姫?どうしたの?」
「う…うっ…」
ぽろぽろと優姫は涙を流していた。
「ど、どうしたの!?」
「だって、だって…。まさか二人がお祝いしてくれるなんて思ってなくて…。私嬉しくて…」
「おいおい、なに泣いてんだ。…ってあぁ、そうか。その様子だと上手くいったみてーだな」
「うん、まあね」
「そいつは良かった。あぁ、その話はあとでいい。まずは飯にしよーぜ」
「そうだね、僕お腹空いたよ。優姫は?お腹空いてない?」
「空いてる…!お腹空いた…!」
そして僕たちは食事しながら理久に事の顛末を話した。
一通り話し終えるまで理久は黙って僕たちの話を聞いてくれた。
全てを聞き終えた理久はいつも通りの素っ気ない態度だった。
***
「うん、じゃあそろそろいいかな」
「快人?」
「ほらよ兄貴。お前が渡してやれ」
「ありがと」
理久から受け取ったそれを、僕は優姫に差し出す。
「はい優姫。僕達からのプレゼントだよ」
「これ…ペンダント?」
「俺らプレゼントとかしたことないからなー。何渡せばいいのかわかんなかった」
「「現金でよくね?」って言った時は本気でどうしようかと思ったよ…」
「ま、今回は別に約束も何もねーから安心しろ。そこまで大したもんじゃねーし無くしても別に…。あぁ、やっぱ無くされると腹立つわ」
「ううん、大切にする。今度は絶対無くしたりしないよ…」
そう言って優姫はペンダントを身に着けた。
「どう?似合ってる?」
「いいんじゃねーの?なあ兄貴」
「そうだね。よく似合ってるよ」
「えへへ…。ありがと」
「あぁそうだ。言わなきゃいけないことがあった」
「何?」
「いや、そういえばまだ優姫が帰ってきてから一度も伝えてなかったなって思って。…おかえり、優姫」
「おかえり」
「二人とも…。うん!ただいま!」
そう言いながら、優姫は今日何度目かの涙を流すのだった。
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