第14話 わからない

「はーん。なるほどね」


 日の暮れた帰り道、理久は話を聞き終えると一人何かに納得していた。


「まぁ、この前はちゃんと聞いてやらなくて悪かったな」


「いいよ、そこはそんなに気にしてない。…でもそうだな、今度アイスでも買ってもらおうかな?」


「なんだそりゃ…。ま、それでいいなら別にかまわねーけどよ」


「でもそうだね…。具体的にどうしようか?」


「とりあえず兄貴の感情はいったん置いとけ。まずは何を忘れてるのかを思い出さなきゃ何も始まらねー。…と言いたいところだが、悪い兄貴。俺もその時のことは覚えてない」


「だよねぇ…」


 詰んでる。


「そうだな…とりあえず明日押し入れとかアルバムでも漁ってみるか?」


「そうするしかないか…。なんか黒歴史を掘り返すみたいでヤダなぁ…」


「お互い様だ馬鹿野郎」


 ***


 二人と距離を置いてそれなりに時間が経った。


 またあの奇麗な夕陽が見たい。


 一緒に遊びたい。


 二人に謝らなきゃいけないのはわかってる。


 時間が経てば経つほど話し辛くなるのもわかってる。


 …勇気だ。


 必要なのはいつだってたったそれだけ。


 そんなの、わかってる。わかってるんだ。


「私…どうしたらいいの…?もうわからない…」


 ***


 二人で過去の思い出を探し始めて少し時間が経った。


 昔遊んでいた用途不明の玩具や、懐かしの漫画等は見つけたが、悩みの核心に至るようなものは見つかっていない。


「だーめだ。何にも見つからねぇ」


「なんか大掃除してる気分だよ」


「出すのはいいけど片づけんのかったりぃなこれ…」


 意気込んで探し始めたはいいものの、こうも進展がないとさすがに気が滅入る。


「そっちはどうだ?アルバムの方になんか面白いのあったか?」


「うーん、あんまり。家族写真とかそういうのばっかり」


「それが普通だろ」


「…あー。昔こんな子いたなぁ。懐かしいなぁ。今何してんだろ…」


「おーい兄貴。目的を見失うなよ」


「わかってるよ」


 そう言って僕は何気なくアルバムの次のページをめくった。


 そしてそこにあったものにしばらく目を奪われてしまった。


「おー、このおもちゃまだ残ってたのか。…ダメか、さすがにもう動かねー。…兄貴?おい、どうした?」


「……ねぇ理久」


「なんだよ?」


「今、理久がお守り代わりにしてるあのミサンガ。昔僕も持ってたよね?あれ、どうしたんだっけ……?」


 そして、僕は。僕たちはあの時のことを思い出したのだった。

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