第11話 こんなものいらない

 出会った時から私の心にはいつも二人がいる。


 幼い頃、二人と遊んだ思い出は大事な大事な宝物だ。


 お別れしなくちゃいけなくなったのはすごく悲しかった。


 あの時二人がどう思っていたのかはわからないけど、二人とも笑顔で送ってくれた。


 あの時もらった笑顔とお守りがあれば私は平気だった。


 見知らぬ土地、見知らぬ人たちの中で一人になっても頑張れた。


 私は人づきあいが上手ではない質なので、あまり友達はできなかった。


 コミュニティからあぶれた私は邪魔者か厄介者かなにかだったのかな。


 兎も角、私は一人になった。


 一人になってより一層、心の中の二人が私の救いになった。


 いつからだろう。どうやら私はコミュニティのリーダーの疎ましい存在になったらしい。


 物がよく無くなったり、罵詈雑言が平然と私に浴びせられた。


 でも、何をされても私の心は折れなかった、と思う。


 もしかしたら壊れているのを自覚してないのかもしれないけど、そこはどうでもいい。


 痺れを切らしたのか、ある日直接的な行為に及んできた。


 何をされてもさほど痛くはなかったけど、その日は私も虫の居所が悪かったかもしれない。


 あの時の行動自体に後悔はないけど、感情的になってしまったことだけは反省点だろう。


 その時以来、私に対する嫌がらせはぱったりと止んだ。


 代償に私には孤独が残ったけれど、心にある大事な物だけは守り通せた。


 孤独という闇も、約束とお守りが明るく照らしてくれた。


 時が経ち、私はその場所を離れることになった。


 二人との別れに比べれば、いい思い出のないこの場所を去ることなんて他愛もないことだった。


 でも、この場所を去る少し前に《それ》はおこった。


 お守りが、ない。


 いつも肌身離さず持っていたはずのそれが。


 …終わっていなかった。


 十中八九犯人はあいつ。


 探した。


 心当たりは虱潰しにあたったけど見つかるはずもない。


 嫌だったけど、大事な物には代えられなかったから、私はそいつを問い詰めた。


 …私を待っていたのは絶望だった。


 お守りは鋏でズタズタにされ、私の目の前で灰になった。


 二人との絆さえ、その時同時に失ったように思ってしまった。


 激昂すらできず、私の心には大きな穴が開いてしまったような気がした。


 私は泣いた。


 泣いて、泣いて、泣き続けた。


 どれくらいそうしていただろうか。


 私は心に穴を開けたまま、そこを去った。


 そして私は、自らの大事なものと引き換えに、大事なものを失わなくて済む力を手に入れた。


 望んで手に入れたものじゃないけど、少なくとも役にたったのは確か。


 …でも、こんなものはいらない。


 こんな誰にも好かれず嫌われず、当たり障りなく他人と接する力なんて、私はいらない。


 ねぇ、こんなものいらないから。


 返すから、私の大事なものを返してよ。


 私の大切な、二人との絆を…。

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