第7話 アホ

 この街は別に都心にあるとか、発展途上中だとかそんなことは全然ない。


 ただ、一般的な娯楽施設のほとんどはあると思っている。むしろ都会のほうがそういった施設が過剰なのだ。


「へぇー。思ったよりも色々遊べるところあるんだね」


「思ったよりもって…お前のこの街のイメージはどんなだよ」


「いやぁ…昔の二人と遊んだ場所の記憶しかないからさ、ここまでだとは思ってなかったんだよ」


「まぁでも困らないってわけじゃないけどね。見たい映画がやってないとか、ゲーセンでやりたい筐体が置いてないとかけっこうあるし」


「全体的に中途半端なんだよな」


 理久の言う通り全体的に中途半端。それがこの街の印象だった。


「それで?いざ街に繰り出してきて、俺たちはいったいどこに向かうんだ?」


「大丈夫。ちゃんと考えてきたよ!」


 そう言って小さな紙を取り出す優姫。


 律儀にメモを取ってきたらしい。


「えーっと、まずは映画見てー…」


「待った」


「ん?どったの理久?」


「いや…俺のゲーセンは別に後でもいいけどよ、今日ってどれくらいまで付き合わされるんだ?」


「んー…、夜まで、かな?」


「…」


 理久が乾いた笑みを浮かべた。


「…オッケー。わかった。覚悟できた。大丈夫だ」


「…めんどくせぇ」


 誰にも聞こえないような小さな声で理久がぼやいた。


「あ…もしかしてなんか用事あった?」


 遅刻の一件から心なしか優姫が低姿勢だ。


 気にしないでって言ったんだから本当に気にしなくていいのに。


「別に、お前が気にすることじゃない。確認したかっただけ。ってかむしろお前はさっきのこと気にしすぎだ。いい加減開き直れアホ」


「アホって言った!?ねぇ快人!あなたの弟君は私のことをアホと申しましたわよ!?」


「何があってそんな口調になったのか全然わかんないけど、とりあえず落ち着いて。…映画だったよね、時間大丈夫?」


「あぁ、そうだったそうだった。行こ、二人とも!」


 そう言って小走りで優姫は駆け出して行った。


「本当に優姫は変わったよね、昔と立場が完全に逆転してるよ」


「そうだな、昔は何をするにも俺たちが引っ張りまわしてたな。…やっぱあれ別人なんじゃねぇの?」


「だとしたら笑えない冗談だね…。何があったんだか」


「さてな。兄貴聞いてみたらどうだ?」


「うーん。気が向いたらね」


「快人ー、理久ー!空いてるみたいだしさっさとチケット買っちゃおー!」


「お呼びだよ」


「お前もだろ」

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