第96話物々交換はした、さぁソルス・エル・ピーシェを採りに行こう

 そんな風に、ちょっと現実逃避している間に、おじさんの采配のもと、どんどん物々交換されていく。

 私としては、大量の食料やテントやなべなどの調理器具なども手に入ったので、それで構わなかった。

 物々交換が終わると、村人達は戦利品を手に手に、にこにこしながら帰って行った。

 後に残ったのは、宿のおじさんだけだった。


 「あんたのお陰で助かったよ。肉の他に薬草や香草があったのは、本当にありがたかった。これで、旅に必要なものは手に入っただろう………ってことで、早く、この村から出て行ってくれ。ああ、せっかくだから、ソルス・エル・ピーシェを採れるだけ持って行けよ。アレは冒険者にしか採取できないモノだからな。好きなだけとって行けば良い」


 ああ、やっぱり言われましたか………。

 とは言っても、私も冒険者登録できないのでは意味が無いので、ここはあっさりと引きましょう。

 だって、このおじさんは、とても美味しいこと言ってくれましたもの。

 どうせ、認識阻害効果のお陰で、詳細に私を認識できているわけじゃないし………。


 「わかりました」


 おじさんの言葉にあっさりと頷いた私は、サラッと物々交換されたモノを視認する。

 私は取り込む範囲を認識し、全部、左手首のインベントリへと取り込むことにした。

 ちょっと不思議な現象でも、認識阻害効果で、直ぐに忘れて日常に戻るだろうコトを前提に、サッと左手首の腕輪を翳して、一瞬で全部を収納した。


 「では、失礼します」


 ここでするべきことを終わらせた私は、おじさんに一礼して、あっさりと背を向けた。

 そんな私の背に、おじさんが呟くように言う。


 「あんたに、太陽神ソレスト様の加護がありますように………」


 その言葉は聞こえたが、私は振り返らずに、ソルス・ロス・エンダ村からソルス・エル・ピーシェの大樹が植えられている外輪へと足早に向かった。

 こうして、私は、ソルス・ロス・エンダ村から出ることにしたのだった。


                ***


 私は足早に、冒険者にはとても恩恵のある、ソルス・エル・ピーシェを採りに向かった。

 ソルス・ロス・エンダ村の中心部から外輪に向かい、村人などの気配がいっさい感知できない程離れた頃。


 私がソルス・エル・ピーシェを食べ終わった後に、スルリッとフードの中に入り、小さくなって隠れていたコウちゃんとガッちゃんが、ひょこっと外に出て来た。

 その姿を見て私は、ほっとしていた。


 ダンジョンでコウちゃんと会話を始めて、途中からガッちゃんとも話すようになったのを考えると、一緒にいた時間はそんなに長いものではないけど………。

 でも、前世と違って友達という存在(少しは居たのよ、仲間って呼べる人達)が無かった、私にはとても大切な存在になっているから………。


 ついでに、あっちでの前世では、どの人生の時も、モフモフ大好きで、何時もペットを飼っていた私には、2人の存在は見ているだけで癒されるものだから………。


 ただひたすらに、未来の皇太子妃としての教育を受けるむなしい日々。

 私は、あの王宮で、仮面を被ったような臣下の者達の中に居た。

 私のことを、血統だけで、ろくな魔力の無い小娘と、陰で小馬鹿にしていたのを知っている。


 あの呪具を装着させられて、認識がかなり半減していても、臣下の大半が未来の皇太子妃というコトだけで、傅いていることは判っていた。

 それが判るだけに、ずっとずっと孤独だった。


 いや、それでも、お父様の娘であり、あんなお花畑でお馬鹿な皇太子よりはと、騎士達の半分以上が、私を好意的に見てくれていたけど………。

 でも、それは私自身…ただのシルビアーナを見ていたわけではないもの………。

 私を、私として、見てくれた者はほんの僅かだった。


 皇太后陛下に、アルディーンお兄様、そして、お花畑の腹違いの弟のレオンハルトも、良く私にお菓子を差し入れてくれたわ。

 あと、お顔が認識出来なかったけど………3人……いいえ、もう1人、年に一度訪れるかどうかの………たぶん、年上? の男の人。

 あの方は、とても珍しいお菓子を持って来てくれたのよねぇ……顔が判らないけど。

 食べている私を見て、みんな………。


 『本当に、君は食べている姿が可愛いねぇ~………』

 『幸せそうに食べている君を見ていると、私も幸せになれるよ』

 『美味しい? たくさん食べてね。幸せそうなシルが大好きだよ』

 『今回は、○○国のだよぉ~……あの国で1番美味しかったのを持って来たんだ』


 などなど、色々と………そう、お陰でよけい太ったのよねぇ………。

 当時は、ただただ嬉しいだけだったけど………。

 じゃなくて、今までの地位と立場と呪具で、雁字搦めだった私は、あのお花畑のお馬鹿さんと、たゆんたゆんメロンちゃんのお陰で、自由になれたのよねぇ………。


 たとえ、それが《難攻不落の深淵の絶望ダンジョン》の最奥のちょっと手前に送られたことだったとしても………。

 そのお陰で、コウちゃんと知り合えたんだし………。

 ガッちゃんとも知り合えたんだもの。


 うふふ………全てから解放された証しが、このコウちゃんとガッちゃんと言っても良いかな? なんて思っているわ………う~ん、我ながら、乙女思考だわ。



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