第93話093★ソルス・ロス・エンダ村が廃《すた》れた理由


 「もう…だいぶ前から、ここのダンジョンに潜れるほどの冒険者が

  いないくなったからな………」


 「そうなんですか?」


 「ああ、どっちのダンジョンも、思うようにお宝は取れないし……

  中は奥に行くほど、魔物が強力なり過ぎて………

  自分のレベルを上げる為に潜るやつ等は来なくなったしな」


 その説明は、知りたくない真実でした。

 思わず、だから、私は思わず叫んでしまいました。


 「うわぁ~…そこまでぇ…来なくなったんだぁ……」


 いや、でも、まてよ。

 だったら、なんで冒険者ギルドがここに残っているの?

 収入を望めない、すたれてしまった支部なんて、冷たくポイッと捨てる冒険者ギルドが、何故、ここを拠点として維持している?


 「ええー……だったら、どうして、ここは、維持されているんですか?

  経費の無駄って言って…普通なら閉鎖しますよね?

  冒険者ギルドは、慈善事業じゃないっ…って………」


 そういう私に、おじさんは言う。


 「ここが維持されているのは、国の補助金が出ているからなんだ」


 そう言ってもおじさんは苦笑する。

 その内容に、私は首を傾げる。


 えぇ~とぉ~…冒険者ギルドと国って、基本的な理念が違うから、仲が悪かったよね。

 なんで? 冒険者ギルドに補助金? それって、国にどんなメリットがあるの?


 「補助金ですか? ………冒険者ギルドとは相容れない気がしますけど………」


 つい疑問を尋ねる私に、おじさんは、面倒臭いという表情のままで、何故か丁寧に答えてくれる。


 「いや、寂れてどうしようもないって判断した時にな

  ギルドはここの支部を閉じようとしたんだよ


  でも、ここが閉じられたら、またあの2つのダンジョンから

  魔物のスタンピートが始まった時に、後手に回ってしまうからって……


  国が補助金を出して、ギルドの職員が

  この村の周りを定期的に確認して回っているのさ」


 「そうなんですか………」


 そう言えば、このダンジョンのイベントは、魔物のスタンピートが原因だったっけ………。

 突然、魔物が、魔の森などの住処すみかから、人間の住む村や街、そして都市へとどんどん現われる。

 幾ら討伐しても、魔物の現われる数は減らない………。


 それなのに、討伐する人間達は、怪我と疲労でどんどん減って行く。

 このままじゃジリ貧で、いずれ人間達は、魔物によって滅びてしまう………。

 そこで、各国の王と皇帝、冒険者ギルドは、A級以上の冒険者に呼びかける。


 魔物のスタンピートの原因を探って、そのモトを絶てって依頼した。

 調査の結果、難攻不落の深淵の絶望のダンジョン《狂いし神子の討伐》の攻略をして、ダンジョンから溢れる魔物を駆逐するしかないってなったんだっけ………。

 いや、これはあくまでもRPG【黄昏の解放】の中での話しですけどねぇ………。


 でも、リアル世界のここでは、本当の意味で魔物のスタンピートが発生していないってことよね。

 だったら、危険なダンジョンに潜る必要は無いわね………確かに、すたれるはずだわ。


 私はある意味で納得してしまう。

 そんな私に、おじさんは吐き捨てるように、ぼそぼそと自分の事情を口にする。


 「ここに住んでいるのは、この土地で作物を作ったり

  牛や豚やヤギや羊を育てている農業生産職の人間だけだ


  ようするに、土地に縛られて何処へも行けない者達が

  細々と暮らしているわけだ」


 そっかぁー先祖代々の土地って、気が良い人達を縛り付けるモノなのね。

 なんて思って、私は頷くことにした。

 だって、欲しかった情報は手に入れたから………。


 後は下手に刺激して、愚痴が始まったら長そうだって思ったんですもの。

 だから、適当に相槌をうってみた。


 「はぁ~………」


 そんな私に、おじさんは冷たく言う。


 「冒険者登録なら、別の街か村でするんだな」


 やっぱり言われましたね。

 ここで、登録できたら簡単だったのに………。


 身分証明が無いと、街に入るのが面倒になってしまいますからね………。

 ここで冒険者登録が出来ないと知った私は、思わずガッカリしました。

 

 「私って、運が悪いのかなぁ?

  遠見でギルドの職員が居るのを、確認してもらって来たのに………」





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