第90話090★ソレス・ロス・エンダ村に到着しました



 お気に入りのアニソンを歌いながら、このまま行けば、あの村の大好きな果物を食べられることを思い出す………。

 ソレス・ロス・エンダ村の周りには、魔物避けの結界を兼ねて、前世の聖なる食べ物? 扱いの、桃に似た果物が植えてあったから………。


 そして、その果物は、難攻不落の深淵の絶望のダンジョン《狂いし神子の討伐》の攻略に行く冒険者は、お一人様3個まで採っても構わないことになっていたから………。

 その果物は、太陽神ソレストの愛と加護の実(ソルス・エル・ピーシェ)って呼ばれていたのよ。


 でも、3個採れるかどうかは運しだいだったのよねぇ………。

 ソレス・ロス・エンダ村に来る冒険者って多かったから………。

 採れない場合は、村の宿屋に泊まって、実が熟すのを待たなければならないのよねぇ………。

 生っている実が若すぎて、何度、実が熟すまで宿泊したことか………。

 ソルス・エル・ピーシェって、本当に、桃に良く似た果物なのよねぇ………。

 とは言っても、実際の実物は見たコトないけどね。


 前世のRPG【黄昏の解放】の中に出て来ただけで、本当の味までは知らないから………ただ、とても美味しいってことになっていたわね。

 実際に、食べたらどんな味なのかしらねぇ………。


 だって、これはゲームじゃなくて、現在進行形のリアルなんですもの………。

 それでも、わくわくするわぁ………うふふふ…きちんと熟した実はあるかしらねぇ?

 ああ…それにしても、私ってば、こっちに転生して、すっかり食いしん坊になっているわねぇ………。


 でも、ソルス・エル・ピーシェって、本気でどんな味なのかな?

 RPG【黄昏の解放】の中と同様に、同じ効果を期待できるのかしら?

 いや、その前に、採れる分は残っているのかしら?


 なんてことを考えながら、アニソン中心に歌いつつ、ひたすらソルス・ロス・エンダ村に向かって歩いて行く。

 そして、あの桃に良く似た実をたわわに実らせる巨木が、遠くに微かに見えた。


 え~とぉ~…確かこの方向だったわね………一際高い木もあったから………。

 あぁ…よかったわぁ~…有ったわ、ソルス・エル・ピーシェの大樹が見えたわ。

 まだ、完全に視認できないけど、アレで間違いないわね。


 あそこから結構な距離があったわねぇ………いや、本気で………。

 RPG【黄昏の解放】の時は、仲間もいたし、レベルもかなり上げていたから、移動距離を何とも思ってなかったけれど、実際をリアルで歩くと距離あるわ。

 天使シリーズを身に付けて、深窓のお姫様育ちのシルビアーナの色々を底上げしても大変だったわぁ………。


 それに、途中で何度も魔物と遭遇したし………。

 やたらとエンカント率が高かったのは気のせいかしら?

 いや、RPG【黄昏の解放】の《難攻不落の深淵の絶望ダンジョン》周辺って、近くに

《永遠の牢獄ダンジョン》も有ったセイで、魔物との遭遇率は高かったけどねぇ………。


 ある程度は、ソルス・ロス・エンダ村に来た冒険者達の手で間引かれていたから、入り口周辺に近寄らない限りは、そこまでじゃなかったはずなのよねぇ………。

 まぁ良いわ……だって、ソルス・ロス・エンダ村の聖なる木である、ソルス・エル・ピーシェの大樹がはっきり見えたんだもの………。

 ってことは、ソルス・ロス・エンダ村に到着したってことよねぇ………。


 やったわ……そう思った私は、コウちゃんを見た。

 勿論、コウちゃんも私を見ていた。

 当然、先頭を見た目はトテトテだけど、意外と早い速度で歩いていたガッちゃんとも視線が合い、思わず頷きましたわ。


 「ようやく、辿り付いたようね」


 思わずそう感慨深げに呟けば、コウちゃんが言う。


 『とりあえず、ここに来たら

  ソルス・エル・ピーシェの実をゲットだね、ママ』


 『ソルス・エル・ピーシェの実って、魔石より美味しいのでしょうか?』


 2人の発言に、私は思わずクスッと笑ってしまう。


 「そうね、美味しいって設定になっていたわね

  実際はどうなのか? 食べてみればいいわ」


 そういう会話をしている間に、ソルス・エル・ピーシェの大樹が結界のように植えられた、ソルス・ロス・エンダ村に到着する。



              ***



 結界として植えられているソルス・エル・ピーシェの大樹を見上げで、つい微笑みが零れ落ちてしまう。


 良かった………きちんと、実がなっているわ。

 それも、充分に熟したとわかる紅い色の付いた実があるわ。

 そこでさっそく、私は、楽しみにしていたソルス・エル・ピーシェを、規定に従って3個採りにかかった。


 1個目をもいだ時に、ふと美味しくなかったら? って、思ってとりあえず1個だけを手にした私は小心者。

 だって、たとえ美味しくなくても、食べないモノを採るのは良くないことだわ。

 ああ、本当に私って日本人だわぁ………。

 いや、前世の記憶が強くなって、もったいないが出てきてしまったらしい。




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