第39話 修行の終わりと予期せぬ再会

 フィオナは関係ないよ。


 ―――――――――――――――――――


「うぅ……」


 ドサリとアカツキは、前のめりに倒れた。ここは結界の外側。つまりはアカツキの修行は、一旦終わりを迎えたのである。


『どうだい? ドラゴンとのガチンコは?』

「……もうやだ」

「つれない事を言うでない。妾とお主の仲ではないか」


 声と共に白い結界内から出てきたのは、胸元がヘソまで開いた赤いドレスの美女。豪奢な赤い巻毛、瞳も赤く、言ってみれば何もかも赤い。違う色と言えば肌の色と白目くらいだ。目のやり場に普通の男なら間違いなく困る恰好をしたそんな女が、髪をかきあげながら出てきた。


「あのなぁ、ドララ! そんないい女風の態度とっても駄目だぞ!」

「何を言っておるか。ここらへんをお前の目は行ったり来たり……」

「うわぁぁ! やめてくれぇ! 後生だから!」


 切れ目の入った胸元に手を入れ、ドレスをクイッと引っ張るドララ。見えそうで見えないところがなんともイヤらしい。それでもアカツキは、目が行きそうになってしまう。アカツキとて大人になりつつある微妙なお年頃。そういったものに興味があってもしょうがない。フィオナに顔向けできないと思っていながらも、制御できないリビドーが妬ましい。


『随分仲良くなったみたいだね。ドララシェリクディアが、愛称で呼ばせる事を認めてるなんて』

「名前が長いって言われてのぉ……妾の好みの男は、本気で喧嘩できるかどうかの一点のみじゃからの」

『お眼鏡に叶ったんだ』

「久しく興奮したのう……」

「冗談だろ……」


 ちょっと人に見せてはいけない顔をしている、アカツキにドララと呼ばれた美女。エーヴィヒカイトが名を呼んだように、デザートトライアングルの主、かのレッドドラゴンである。倒れたままつぶやくアカツキを、愛おしげに見るドララは視線をアカツキに向けたまま、変わりないかを聞く。


『エライことになってるよ』

「……なんか、あったのか……?」


 単独行動をしていたので、連れの様子が気になるようだ。


『簡単に説明するとね……』


 瘴気に侵された風の大精霊ネヌファを率いたアルルが集落で暴れまわり、それに対抗しているのが水の勇者ラーラと先代火の勇者チュコヴ。それに付き添うのが、ハーフリングの族長ヨゼフィーネと、今代火の勇者ナ・プラダ。


 交戦中ではあるが、一進一退で状況は膠着気味であるようだ。


 騒乱渦巻く里から避難しようと、隠し通路からの脱出を試みた一般人とエドとレビン。エルフの族長ダズと娘のキリリはここに属しているのだが、どこからか入り込んだ人攫いの集団が行く手を阻んでいる。未だ里からの脱出は出来ずに立ち往生しているようだ。


 エドとレビンも参戦し、泥沼状態。戦う意志が皆無なハーフ達を守りながら戦うので徐々に押され気味とのこと。


「エライことになっとるのお……」


 ドララがつぶやきをこぼす。アカツキたちが、結界内に閉じ込められてわずか半日。随分と様子が様変わりしていた。


 その中で一人出てきていない人物のことが気になるアカツキ。彼ならば、状況をいい方に傾けてくれるはずなのだ。それだけの実力がある。誰もが認める称号を持っているのだから。


「ゼファーさんは……? あぁ……名前だけ言ってもわからないか。ハーフエルフで……」

『冒険者だろう? 彼はね……』






「とにかく介入しなくてはならんな。ここでボサッと……」

「悪ぃがお前を行かせるわけにはいかねぇよ」

「!?」


 バッと後ろを振り向くゼファー。お互い木の上に立っているが、相手の方がやや上にいるので見下ろしているような形になる。黒いローブをまといフードを被っている、声からするとおそらく男。だが……


(この声、どこかで……)


 妙に聞き馴染む声に訝しむゼファーだが、考えに深けることを相手は待ってくれないようだ。


「ランクS冒険者ゼファー。お前にゃ悪いが、ちょいと大人しくしといてくれや」


 ゼファーが何かを言う前に、ローブの男は姿勢を前へと崩していく。樹上ゆえにそんなことをすれば、ただ落ちていくだけなのだが、当然そんな事はない。


いかづちよ」


 その一言ともに、ローブの男は足元に『パリパリッ』という音を立てると、一気に加速。一般人では全く捕捉できないであろうスピードで、一気にゼファーへと襲いかかった。右手にはいつの間にか、ひと目で業物と分かる片手剣を持っている。


「ッ! 貴様、ハーフか!」


 返事もなく剣を目一杯引いた状態で間合いに入った襲撃者は、身体の捻りも利用し、思い切り剣を振り込んでいく。


 もちろんゼファーとて、そのまま相手の思いどおりにさせるわけもない。そんなことをすればただ死へと招待されるだけである。


 咄嗟に腰の得物を、相手の斬線へと滑り込ませる。『ガギィ!』という鈍い音と同時に火花も散る。それほどの威力をローブの男の剣戟は出せるということだ。


 運良く剣を挟み込めたが、冷や汗を流しながらゼファーは、このあとの戦闘プランを練ろうとしたが……


(……? このニオイ……)


 僅かに香る相手の体臭。雷の精霊術。見覚えのある片手剣。


「……ようやく気づいたか。いい子ちゃん」

「トルギス、なのか……?」

「一応お前の兄貴なんだがな……今はウロボロス第7席ニーズヘグを名乗っている。……久しいな、弟よ」

「ッ……」


 正体を隠す気がまったくないのか、ローブのフードをめくり上げる。そこには間違いなく、幼少期より共にあった兄の姿があった。


 ―――――――――――――――――――


 全部描写すると、きりがないので端折りました。

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