第21話 理由

「どうして自分たちの方が優れているのに、中級精霊と契約できないのかと言い出したのだ」


 素質のある者と中級精霊が合わされば、トータルでの強さは格段に高まるのは間違いない。なのに自分たちは下級精霊の使役のみ。自在に操れるという利点はあるものの、そもそもの精霊の力の差がありすぎた。


 何せ邪混だなんだと見下していた存在が、いきなり対等になるのだ。特に血統主義者などは特に大騒ぎした。


「そもそも他人が虐げられるのを平気で見ていられる者など、そうそういるわけもない。ただ声が大きいものに限って力が強かったのだ」


 精霊王は悩んだ。どうすべきかと。特に結論を急かされていたわけではないのだが、ただそのように生まれただけで迫害を受ける者たちに対し、心を痛めていたのは事実。それを見かねたのが、腹心である三体。


 ―――火の大精霊『ウルカヌス』

 ―――風の大精霊『ネヌファ』

 ―――水の大精霊『ニンフ』


 三大精霊が、各種族から選ばれた一名ずつ、計三名と直々に契約をすると名乗り出たのだ。


『各種族で一番の猛者との契約を行う。ある程度の年月が経てば、再び猛者を募り、現契約者と戦い、勝ったほうと再び契約を行う』


 その契約をしている者を『勇者』と呼んでいるということだ。


「じゃあ、その契約をしているのがそちらの……」

「そういうことになる」


 そう言う理由であれば、何も考えずに斧を投げつけてくるということに理解が及ぶアカツキたち。要はこの三人が一番強いということだ。どれだけアホでも、とにかく強ければ問題ないという話。


「で、さっきのが」

「……頭の痛い問題だが、いちゃもんをつけてやり直しを要求している「血統主義者レイン・プルートの構成員だ」

「呼ばれ方がまるでマフィアじゃねえかよ……」

「どこにでもいるものなのだな。あのような輩は」


 案外、亜人サイドも人間たちと変わらない部分があるようだと察した二人。騎士であるゆえに、そういった者たちとの暗闘もあるので、とてもよくわかる話である。表面上従っているような顔をしているが、内心では舌を出しているのだろう。


 血統主義者は差別を必要とし、ハーフを邪混と蔑み、ないものとしようとしている。族長たちは精霊王の施しに従って、あくまでも仲間としてみようとしているということらしい。


 そうすると一つ問題が発生してくる。


「じゃあ、そこの風? の勇者である……」

「アルルのことか?」

「あ、そうです」


 いつまでも興味がなさそうにそっぽを向いたままのエルフ。アカツキにとっては当たり前の疑問だったのだが、余計なひと言であったのは間違いない。


「どうしてハーフを蔑んでいるのですか?」と、言ってしまったのである。


 族長側である以上、どちらかと言えば差別をなくそうとする方であるはずだが、先だってのセリフには十分な悪意があった。


 あっ、と周りが思ったところですでに遅い。言葉は放たれた後であり、どう取り繕おうとなかったことにはできない。


 ギロリとアカツキを一睨みすると、特に何かを言うわけでもなく、部屋を出て行った。話によれば、彼女は風の大精霊ネヌファの力を使えるはずである。亜人勢力の最強の一角であり、どう考えても怒らせるメリットは欠片もない。力を行使されなかっただけありがたい話であった。


「おいっ、アカツキ。あんまり余計なことを言うんじゃない」

「え?」

「こういった場では、『言質を取られる』ということがある。日常会話で思ったことを言うのとは一線を画すんだ。覚えておいた方がいい」

「あ、うん、ごめん」

「ごめんですまない場合があるからな。今回は……どうだろうな……」


 レビンとエドに注意され、ちょっとテンションが下がるアカツキ。もう口を開かないようにしようと心に誓う。何も言わないことが身を救うこともあるのだ。

 アカツキが貝のように身を固くする様子を見るエルフの族長ダズが、アカツキをほほえましく見ていた。


「心配いらない。あの子があんな風なのは理由があるのだ。それも、君たちに関係がある、な」


 まだ知らなくていい事実が出てくるのかと、身を固くする三人。あいも変わらずゼファーは平常運転であるところが腹立たしい。知っているのか、動じていないだけなのか。


「アルルの妹である、ウルルという娘がのだが……とある人間と恋に落ちてな。一人の娘を生んだのだ」


 それだけなら、どこにでも……という話でもないが、まあない話でもない。アルルが族長の娘のキリリの叔母であるという事実を見た場合、アルルはダズの妹であるはずであり、ウルルも当然二人の妹であるということになるのだが、過去形なのがどうにも気になった。


 しかし次の一言でそんな疑問は一気に吹き飛んだ。


「娘の名は『シャロン』。今は『シャロン=リーネット』と名乗っておるがな」

「どっかで聞いたような……?」


 アカツキには今ひとつピンとこないが、記憶をかすってはいるようである。だが、レビンとエドにはバッチリとはまる名前であったようだ。


「冗談だろ……エド、知ってたか?」

「知るわけないだろう……じゃあ、シャロン殿下が魔術……いや、精霊術か。それを使えるのは……」

「無論、シャロンがエルフの血を引くものだからだ。人の純血とエルフの純血を掛け合わせた、素質的には最高のハーフだぞ。変な言い方ではあるがな」


 王家の末娘が、まさかの混血であったことに一同仰天する……とんだ大スキャンダルである。いや、アカツキだけは「ふーん」の一言で済みそうであった。田舎の人間は、どんな血が混じっていようが関係ないのである。


 ―――働き者かどうか。


 人の価値基準はそれだった。

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