第10話 嫌われる理由
「ねえ、ゼファーさん」
「なんだ?」
「なんで、ハーフってあんなに嫌われてんの?」
領域内の森を歩きながらアカツキはゼファーに尋ねる。森の中はある程度の幅があり、多少根っこの大きい部分があったりはしたものの、歩くことに気を使う必要はほとんどないような場所であった。なので、話す余裕があったのである。
アカツキは疑問だった。アカツキにとってハーフというのはゼファーとその兄トルギスしかいないのだが、言葉も通じるし話もできる。ただいるだけで嫌われる理由が分からないのだ。
レビンとエドも話自体は知ってはいたが、生の感情というものに触れたことはなかったので、気にはなっていた。
「そうだな……簡単に言えば、ハーフの時点で魔術の素養が半減するのだよ」
魔術……正式には『精霊術』というらしいのだが、それぞれ階梯というものが存在する。第一から第七まであるのだが、完全なる亜人である族長の一族は、第七まで扱える可能性があるという。
「ハーフだと生まれ落ちた時点で、第三か第四までが最高階梯となるのだ。その為に、素質がないとされ蔑まれるようになる。第三か第四と言えば、亜人の中では最低レベルの代物だ」
上限が普通の亜人の最低と変わらない、可能性がないということで蔑まれ始めた。初めは一部で口さがない者たちが言うだけであったが、徐々にそれが広まり、やがて村の中に居られなくなった。そんな者たちが外縁部に集まって集落を作るようになったとか。
「そういった流れを経て出来上がった集落だったからな。人さらいには格好のカモだったというわけだ」
誰にも必要とされないハーフ。言葉も話も通じるはずなのに、ただ、届きうる階梯が低いというだけで必要とされなくなった人たちが、幾ら助けを求めようと声が聞き届けられることはなかったという。特に抵抗が薄いということで、人さらいたちが定期的に補充に来たということだ。
「特にエルフのハーフは、美醜としては最高のものでな。特に高く売れるということで、権力者たちがこぞって攫いに来たということだ。それがここでの当たり前だったのだが……」
「それだけで収まる話じゃなくなった、ってことか……」
何ともやるせない話である。ここに融通の利かない、絶対的な正義マンでもいれば、『亜人たちの未来は俺が守る!』とか言っちゃったりするのかもしれないが、残念ながらここに居るのは、それなりに現実の苦みを知っている者たちばかりである。故にそこまでの話にはならなかった。が、
「てことは現場に出くわしたら、それだけで『悪』認定ってことでいいんすよね?」
過激な発言の元はレビン。お調子者ではあるが、それなりに思うところがあったようだ。エドも腕を組みうんうん頷いている。
「そうだな。恐らくだが、ファン・ヴェルフの関係者の可能性がかなり高いな。だから、ぶち殺しても問題ないだろう」
「ゼファーさんも大概だね」
「俺もハーフだからな。勿論思うところはあるさ。同胞だし、なにより生きる権利を侵害するところが気に食わん。見つけ次第、必殺だ」
ズゴゴゴ……とゼファーの背景が揺らめく。どう見ても第三とか第四という感じではない、変な圧力を感じるアカツキたち。話を振ったのはアカツキだが、ゼファーもヒートアップしているようだ。自分で話していて、ボルテージが上がったらしい。
「とりあえず、近くにハーフの集落がある。そこを足掛かりに中央部へ向かうとしよう」
「「「うーす」」」
一同は、集落へと向かう。
「はなして! はなしてよぉ!」
「うるせえ! ごちゃごちゃ言わずに付いてくればいいんだよ!」
エルフの子供……ではない。耳は確かに人よりは長いが、重力に逆らうほどではない長さ。いわゆるハーフエルフの子供だ。そんな幼い子供が、魔物の皮をなめしたベストを直肌に着て、まるで山賊のような姿のヒゲ男に、手首を掴まれ無理矢理引きずられている。
「なにするの!? はなしてよぉ! たすけて! おかあさぁん!」
「おっ、何だお前。母親がいるのか? どっちだ? エルフか?」
「しらない! しらないよぉ! たすけてぇ!」
「チッ……うるせえな……黙れっつってんだ!」
手首をつかんでいる反対の手で、思い切り顔を殴りつける山賊顔。「あぐっ」と悲鳴を上げ転倒する子供。倒れたときにつかまれた手首に何かがあったのか、無事な方の手で手首を押さえている。
「いたい……いたいよ……」
「その痛みはお前が俺の言うことを聞かないからさ。分かったらさっさと立て! お前の母親もきちっと連れて来てやるからよ」
「……」
山賊顔の顔はとても親切で言っているように見えなかった。子供はただ震えるのみ。もちろん発言主の山賊顔も、親切で言っているわけではない。
(ククク……ぼろい商売だよなぁ。無抵抗のハーフどもを連れてくるだけで、莫大な金が手に入るんだからよ。しかもエルフは割増しときたもんだ。本当に『勇者派』さまさまだぜ)
周りでは、格子付きの馬車が多数用意され、引きずられていた集落の者たちが多数押し込められていた。男女を問わず、生きている者全てである。地面にはいくらかの亡骸が、大地に絵を描く。
女神の託宣は、こんなところにまで影響を及ぼし始めていた。
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