第63話 戦い終わりて
「……撤退する」
「は?」
「僕は勝てない勝負はしない主義でね。さすがに何の準備もなしに、ランクSと戦おうなんてバカなまねはしないさ」
アレジと対峙したオピオンだったが、あまりにもあっさりと退却を選ぶ。
「逃がすと思ってんのか?」
アレジの鎖は、オピオンの右腕に巻きついたままである。指輪の力は使えないだろうとアレジは想像しているが、
オピオンは左拳を突き出した。全ての指に指輪がはまっている。オピオンが魔力を込めると、空中に魔法陣が投影された。
「ほぅ。どうやらこの鎖、直に触れていないと効果がないようだな」
「……チッ。だが、お前とつながってるという事実は変わらんぜ」
「なに。こうすればいいだけだ!」
魔法陣が輝くと、あたり一面が光で全く見えなくなる。腕で瞼を押さえるが、完全に無効化することは不可能だ。
見えないうちに攻撃が来ることを予測し、気配を探るが何かが向かってくる様子はない。レムリアたちのほうも同様だ。
やがて光が収まると、オピオンの姿はすでになかった。巻きついていた鎖も、解かれて床に投げ出されている。
「……逃げられたか」
アレジは一言つぶやくと、鎖を義手へと変化させ元通りにし、くるりとアカツキのほうへと向きを変え、歩いていく。
「……どうだ? アカツキの様子は?」
「……落ち着いています。少なくとも表面上には傷はありません」
アカツキの回復薬とほぼ同様の効果を持つ『フルポーション』。瓶に入っているうえに、消費期限が短いなど様々な制限があるが、これが現在最も出回っている上級回復薬である。
アカツキの息が安定しているのを見届け、アレジは部屋を後にしようとする。その後ろ姿へレムリアが声を掛けた。
「……どちらへ?」
「国王陛下のところだ。さすがに王女殿下が襲撃されたのでは、報告しないわけにはいかないだろう。ここへはもうすぐ騎士たちが来る。護衛はそちらに任せるとしよう」
「ありがとうございました。危ないところを助けて頂いて」
「かまわんさ。礼ならそこで寝てる弟分に言ってくれや」
「それはもちろんですとも」
そう言ってアレジは、レムリアのほうを見ないまま部屋を出て行った。視線はレムリアを向いてはいなかったが、彼女は頭を下げ続けていた。
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