よく回る責任とりババ抜き

ちびまるフォイ

すべての責任をとるだけの覚悟

3人の手札には真っ白なカードが行き渡っていた。

その中に1枚だけ「ババ」がある。


『お互いに責任をなすりつけあってください』


『最後まで責任ババを持っていた人がすべての責任を取ってください』


『責任を逃れると、カードが1枚減って次の人に順番が移ります』


その3点が説明されていた。


「責任たって……」


お互いに顔も知らない赤の他人の3人はゲームを進めることに。


「えと、なんの責任かわからないけど、俺はできない。

 というのも、今は……そう、忙しいからだ」


ひとりがそう言うと、無地だったカードには文字が浮かぶ。

『忙しいから』と浮かび、手元からこぼれて落ちる。


責任ババは自動的に次の人の手札へと移動した。


「次はオレかよぉ?! えーーっと、どうすりゃいいんだぁ?」


男はうーんと責任逃れをする理由を考える。


責任ババのカードに書かれている「責任者:」の部分に、

徐々に男の名前が浮き上がってくる。


「あ、そうだ! この責任はオレじゃない!

 担当がちがうから、オレの責任じゃない!!」


とっさに思いついた一言で、責任ババの責任者はリセットされ3人目に移る。

男の手元から『担当ではない』の理由でカードが1枚減る。


「今度は私!?」


3人目の女は責任を逃れる理由を考える。


「この責任に関することは、本部に確認を取らないとわからないわよ!」


『自分では判断できない』の理由で女のカードが1枚減る。

そうしてお互いに責任ババを押し付けあってカードを減らしていく。


しだいに手札が少なくなると、責任逃れの理由も出しにくくなっていく。


「えーっと、どうしよう……うーーん……」


時間が経過するごとに、ババに記載される責任者に名前がにじんでくる。

なんとか時間を稼ごうと女が口を開いた。


「ねぇ、この責任ってなんの責任だと思う?」


「知らねぇよ。お前は心当たりあるのかぁ?」


「ええ。実はわたし、複数の男を騙して金をもらっていたの。

 たぶんその責任なんじゃないかと思うわけ」


「今、責任逃れる理由を考えてるから気を散らさないでくれ!」


「だったらオレも実は抱えている責任があんだよ。

 浮気しまくったあげくに子供を何人もつくって養育費を求められてる。

 きっと、このババをあたった人が、オレのぶんの責任をとってくれるんだろうな」


「そうね、きっとそうよ。私のぶんも責任取ってくれるのよ」


責任者にはしだいに男の名前がハッキリと浮かんでくる。


「予約してないからこの件は処理できない!!」


苦し紛れに男は叫んだ。

無地のカードには『予約が必要』という責任逃れが記述されてカードが減る。


「おいおいおい! なに責任押し付けてくれてんだよぉ!」

「そうよ! あなたが責任とればよかったじゃない!」


「うるさい! 俺は会社でデカいミスをして

 今は損害賠償を求められてるんだ! 責任とってたまるか!!」


責任ババが回った男は必死に頭を回して責任逃れの理由を考える。


「えーっと、えーっと、そうだ! 会議の結果が出てないから!」


「なによそれ!?」


「この責任を取るには会議が必要なんだよ! なんかの決定をくだす会議が!

 その結果が出るまでは責任取れない!」


「引き伸ばしじゃないか!」


2人からは非難されたがカードは『会議の結果が出てないため』と記載され1枚減った。

責任ババは女の手元に移動する。


「ちょっと……なんで私が3人分の責任を負わなくちゃいけないの?!

 自分の責任くらい、自分で取りなさいよ!」


「そういうゲームだからしょうがないんだよ!」


「そうだ! 3人の人生が台無しになるよりも

 1人が最底辺に堕ちて、2人救われる方がずっといいだろぉ!」


「なんで男ってこう無責任なの!!」


女は諦めたように手札のカードを放った。


「もういい、こんなのもう止めましょう」


「え……?」


「みんなでこのゲームを終了させるんじゃなく放置しましょう」


「てめぇ、何言ってやがる! ゲームを終わらせないことには

 ここから出られない感じなんだぞぉ!!」


「いいじゃない、それで。それにココに監禁されていても

 いずれ私達3人の誰かを探しにきた人が見つけてくれる。

 そうすれば私達は"監禁されていた被害者"になるわけ」


「お前、まさか……」


「今ゲームを終わらせて、誰かが責任の犠牲になるより

 ゲームを中断させて救助されたほうがずっといいでしょう?

 責任もうやむやになるし、監禁された人にムチうったりしないわよ」


すでにお互いの手札は残り2枚。

責任逃れの理由も浮かばなくなっていた。


「……そうだよなぁ。誰かが悪人になることないよな」

「みんなで責任をごまかせば、誰も傷つかずに済むんだ……」


「そう、わかってくれたのね。みんなで協力しましょう」


女はにこりと笑って、ひとりの男を指さした。


「責任を取るための必要な道具がないからムリ!!

 その道具を揃えなかった原因の全ては、この男にあるわ!!」


無地のカードには『必要な道具がない』の理由で1枚減る。

指名された男の顔は真っ青になった。


「お、おい! なんで俺を名指しするんだよ!!

 それに不意打ちなんて卑怯だろ!?」


「いいから男らしくすべての責任を取りなさいよ。

 さんざんたらい回ししたぶんの責任もとってね!」


「お前……これ以上のたらい回しを避けるために

 わざと俺を指名したな!?」


「そう思うのはあなたが責任者だからじゃない? やっかみはやめてよね?」


「そうだぁ! オレらはもう何も関係ない!

 だって、すべての責任はお前にあるんだからなぁ!!」


責任ババの名前は名指しされただけあって早いスピードで浮き出てくる。

けれどゲーム終盤で責任逃れの理由がぽんと浮かぶはずもない。


「くそっ……えっと、えっと――……」


追い込まれて思いつくまま理由を叫ぶが、

そのどれもがすでに使っている責任逃れの理由なのでカードは減らない。


そして、ついに。



責任者:男A



男の名前が責任ババに記載されてしまった。

女とガラの悪い男は大喜び。


「やったー!! 全責任はこの男にあるのよ!」


「オレたちァなんも悪くねぇ! 責任はないからなぁ!!」


男は静かにうなだれていた。


「ああ……そうだ……すべての責任は俺にある……」


「そうよ。私達にはなーんも責任ないわ。すべてあなたの責任」

「さっさと責任取りやがれ! アハハハハ!」


「わかった……」


男は腹をきめた。



「すべての責任をとって、俺はこのゲームを辞める!!」



最初に男が脱出した。

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