第14話 穴は芋づるの先に

「おれだよ」

 携帯の向こうから聞こえた空井の声は、小さく、緊張していた。まさかこの近くにいて、帰っていった二人と出くわさなければいいが、と思った

「空井さん、今どこ?」

「今、ひとりか?」

「大丈夫、ひとりです」僕は玄関に行き、鍵が閉まっているのを確かめた。

「部屋には入れたのか?」と空井。

「今部屋です。警察の人間が来て、さっき帰りました。まだ近くで張ってるかもしれないから、気をつけたほうがいい」

「そいつら、何て言ってた?」

「空井さんの居場所を教えろ、と……あと、ジーマエンタテイメントのセキュリティの人間が一緒でした。海賊版、なんでしょう?」

「それしか考えられない。他に何か言ってたか? どうして俺をトレースできたか、言ってなかったか?」

「いいえ、詳しいことは何も」

「くそっ、どうしてトレースされたかわからないんだ。他には? 俺を逮捕する気なのか?」

「そうみたいです」

 舌打ちが聞こえた。「ちくしょう……どこかで何かミスったんだ」

「コンピュータを全部持っていかれました、僕のも全部、ディスクや音楽のCDまで持って行きましたよ、知ってますか?」

「いや、俺が見たのは、あいつらが部屋に入ろうとしている時だったから……そうか、まあ、当然持って行くだろうな」

「じっくり調べて、証拠を見つけるつもりですよ」

 空井は小さく笑った。「あそこには何も入ってない。最初からこういう時のために……待てよ」

声が固くなった。「おかしいぞ……あいつら、俺をトレースしたんじゃない」

「じゃあ何で住所が分かったんです?」

「回線を逆に辿ったなら、キングが用意したウイークリーマンションに行き着くはずだ。仕事は全部あそこでやったんだから。ジーマのサーバーから逆にトレースすればそっちに行かなきゃおかしい。そこの部屋に行くはずがないんだ」

「じゃあ……キングがここの住所を教えた、ってことはないんですか。そのウイークリーマンションがまず見つかって、そこからキングが見つかって、キングが白状した……ひょっとして、キングはもう逮捕されてるのかも知れない」

「まさか……マンションは偽名で借りたから、証拠は残っていないはずだ。でも……ちょっと待ってくれよ、今電話してみる。一旦切るぞ」

 電話は切れた。

 僕は、頭の中を整理した。このマンションまでトレースされたとばかり思っていたが、そうじゃなかったのだ。それならなぜ、この場所が分かった? それだけじゃない……

 僕はもっと重大なことに気づいた。

 なぜ、やったのが空井だと分かった? 回線を逆にトレースして行き着くのは、その端に繋がっているコンピュータまでだ。それを操作した人間までは特定できない。やはりトレースされたのではないのだ。やはりキングが捕まって白状したのか。そうでなければ……

 愛?

 警察に密告するという計画を、実行したのか。だが、今日の昼間に、冗談まじりに僕に話してから、これほど早く実行するだろうか。しかも、僕が反対した時、愛も一応は同意したはず……。もし愛だとすれば、昼間、僕と別れてから、すぐ警察に通報したことになる。それとも、僕と会った時は、すでに通報した後だったのか?

 携帯が震えた。

「俺だよ、キングは会社に居た。ぴんぴんしてたよ。警察の影も見えないとさ。キングじゃない。……そうすると、どこから俺の名前が出たんだろう?」

 ……愛だ。

「とすると、あとは分からないですねぇ……」僕は言った。「そのことは後で考えるとして、空井さん、これからどうするつもりです?」

「そうだな……問題は、それだよな」空井は黙りこんだ。

「とにかく、今晩はここに戻らない方がいいですよ。その間に、僕の方でも、分かることを調べてみます。今晩、どこかに泊まるあてはありますか?」

「いや……愛のところくらいしか」

「それはやめといた方がいい」愛の真意は分からない。「警察の手が回ってるかもしれないですよ。空井さんと僕が同じ会社に勤めていたことまで調べてあるんだから、愛さんと空井さんがつき合ってることも知られているでしょう」

「じゃあ、カプセルホテルにでも泊まるか。会社の近くに、みんなが残業で泊まるところがあったよな」

「お金はあります?」

「少しは持ってる」

「じゃあ、明日、こっちからまた電話します。あのう……」僕は何か言い足りない気がしたが、それが何かは分からなかった。「気をつけてくださいね」

 電話を切ると、すぐ愛の番号を押した。

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