【KAC5】ノールール=ノーライフ

しな

掟破り

 ――一瞬の出来事だった。


 崩れた崖から滑り落ちてきた土砂が俺を飲み込み、死に至らしめるまでにそう時間はかからなかった。


 ――目を開けると椅子に座っていた。向かいには白い髭を生やした老人が座っていた。


「君、名前は?」


 老人は一冊の本を開くと髭を触りながら尋ねる。


「……廿楽仁つづらじんです」


 老人は目を凝らしてページをめくりながら俺の名を探す。


「お前さんは死んだようじゃ。まだ若いのに……」


 自分でも分かっていた。大雨の中いつ崩れるかもわからない崖に迂闊に近づいてしまったのだ。


「それで……一つ提案なんじゃが……異世界に転生せんか?」


 老人は髭を触りながら冗談めいた様子もなく言った。


「実はな、若くして死んだ者の未練を晴らすためおまけ付きで異世界に転生させているのじゃよ」


 老人は一枚の紙を俺に差し出した。紙には幾つかの項目があった。

 名前と転生承諾、おまけの選択だった。


 おまけには特殊能力と武器や鎧などがあった。

 勿論異世界で戦う気など毛頭ないので特殊能力にしておいた。

 紙を老人に渡すと、しばし紙を見つめ「よし」と言うと、俺の視界は白い光に包まれた。


 ――目を覚ますと、見知らぬ場所に立っていた。

 石畳の道に西洋風の建物の並ぶ街だった。


「ホントに異世界に来ちゃったよ……」


 自分の貰った特殊能力を確かめたいが方法が分からず辺りを徘徊していると、小石に蹴躓けつまずいた。

 段々その小石に苛立ちを覚え拾い上げる。

 すると、小石は音もなく砕け散った。


 この時ようやく気付いた。俺の能力は《万物を破壊する》能力だった。


 能力を使ったせいか腹の虫が音を立てた。


 取り敢えず近くのレストランでステーキを食べる。

 ものの数分で食べ終え店を後にしようとする。


「お客さん、お金を払っていただかないと……」


 ポケットや体中を漁ってもお金は出てこなかった。

 その時、ひとつの思考が脳裏をよぎった。


 頭の中で必死にイメージを膨らませる。


 少しの溜めの後能力を解放する。すると、体から衝撃波のようなものが発生し、何かが壊れたような音がした。

 周りの人には何も被害など内容で一安心、店を後にする。


 そう、俺は、この世界の食事をしたら店にお金を払わなければならないというを破壊したのだ。

 俺の破壊の能力は、物質的な物は当然だが、明確なイメージさえあれば概念的なものを破壊することも出来るらしい。お陰でタダで食事がとれた。


 ――それから俺は、何か困った事があるとすぐにを破壊した。


 それから数ヶ月後、世界は多いに狂った。街中で窃盗や殺人が多発しまさに世紀末状態だった。

 自分のせいだと自覚した俺は他国へと逃亡した。


 そこでも俺は壊し続けた。

 次第に思った――俺は神だと。気に入らないものや不都合なものは壊せばいい。そうすれば生前の未練を晴らせると思った。


 別の国に訪れると、最も目立つ場所に立ち毎回こう叫んだ。


「俺を邪魔する奴は全員ぶっ壊す。――例えそれがであってもな!!」


 俺はすぐさま全ての国に指名手配された。顔付きの写真が街中にばらまかれた。


 ある日、とある一つの国が全勢力をもって俺に戦争を挑んだ。

 戦争など元から破壊しようかと思ったが面白そうなので受けることにした。

 開戦と同時に幾千もの魔法が放たれ、万を超える兵が武器を手に向かってくる。


 それらを一つづつ丁寧にかつ確実に破壊していった。

 その時からだった。俺は、破壊の楽しさに目覚めてしまった。

 行く先々の国と戦争をし、勝ち続けた。


 時が経つにつれ、俺の思考は正常さを失っていらった。狂ったように人を殺し、街を破壊して行った。

 何人もの人を壊した。


 いつの日か理解した。人は決められた範囲内で幸せになってきと。

 ――そこから俺は、幸せを求め続けた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC5】ノールール=ノーライフ しな @asuno_kyo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ