第27話 会談
私たちは今、執務室内のソファにかけている。
本来なら
エレンは、先の愚痴を矛先である本人にまるまる聞かれていたショックからなんとか立ち直ったようだ。
そして、冷静さを取り戻しはしたもののいったいどんな罰を与えられるのか……と戦々恐々ミリアに視線を向けたところで、私から離れようとしないミリアの痴態? にやっと気づいたらしい。今は口をぽか〜ん、と開け言葉をなくしてしまっている。
……その視線に、ミリアの態度への呆れや戸惑いとともに、ほんのわずかだが私に対しての剣呑な雰囲気が紛れているような気がしないでもないが。
肝心のミリアはといえば、私にくっついたまま、まったく離れようとしない。
腕にしがみつき、猫のように頬をすりつけたり顔を埋めたりとやりたい放題だ。
そんな、なんとも口を出しにくい微妙な空気が漂う中、すぐにエレンの分も含めた4名分のお茶が運ばれてきてテーブルに乗せられた。
エレンは先の失態に加えこの場所と雰囲気にのまれ、お茶を給仕してくれた秘書にも気後れしているようで恐縮しきりといった様子だ。そわそわと落ち着かないが、かといって気を紛らわそうにも真っ先にお茶に手を伸ばすこともできずで困り果てている。
エレンの、なんとかして! と懇願するような視線が、先ほどから私に突き刺さってきている。
……エレンよ。気持ちは分からないでもないが、そう引きつった顔でギロリと睨むのはどうかと思うぞ。綺麗な顔だけにかえってちょっと怖いんだ。
とはいえ、このままの状況を放置するわけにもいかないか。
仕方ない、と私はお茶に手を伸ばす。と。
「んー」
しがみついていたミリアが、催促するように唇を尖らせる。
ミリアよ、お前もか……仮にも
エレンと、特に
「ミリア、お前な……自分の立場と場所、人目を考えろ。それにお茶は熱い。火傷するぞ」
そう私がたしなめると、ミリアはいじけたように、しかしそれでも私にしがみついていた腕を渋々ほどき、自分のお茶に手を伸ばした。
「ではまずは一息つくとしようか。ほれ、お前たちも遠慮せず飲むがいい」
ミリアが、自身に集まっていた視線に応えるようにエレン、アヤとも視線を交わし、ふたりにもお茶を勧める。
エレンと
が。
「どの口が言うんだか」
皆が言わないので私が言った。
「
しれっとミリアが答える。
「相変わらずだな」
「ふふん」
どうやら彼女には何もこたえなかったらしい。
————。
「美味い」
「うん。美味しい」
「うわ、これも美味しい」
「ふむ。いつも通り、いい腕だ」
それぞれが感想、感嘆の言葉を口にしたのを見届け、微笑を浮かべた秘書がぺこりと頭を下げた後に退出していく。
ここまでの流れ——というよりもミリアの
いやしかし、待て、待て。もしかして、ミリアはいつもこの調子なのだろうか。
……気にはなるものの、ともあれ、である。
話を進めなければ、まさに話にならない。
「あのう……お茶いただいていおいて恐縮ですけど……私はギルドの受付業務に戻っていいでしょうか?」
最初におずおずと小さく手を挙げ、口を開いたのはエレンだった。
出来るだけ目立たず、本格的に話が始まってしまう前に早々に立ち去りたい、という本音がありありと透けて見える。
「まぁ待てエレン。お前にはリュウたちの依頼達成手続きと、あと——アヤ、じゃったな?」
「? はい」
「お主、ギルド
「——そうですね」
「じゃから後でエレンと一緒に手続きしてくるがいい。——という訳じゃから、もう少しここに
「……はい」
思惑を外された落胆が全然隠しきれていない返事である。が、いちいち反応するのも無粋、というか気の毒か。
「さて」
優雅な動作でカップをソーサーに戻し、姿勢を正したミリアが毅然とした雰囲気を纏い、口を開く。
——なお、口調も姿勢もグランドマスターらしい威厳を取り戻しているが、身体は私に寄り添うようにぴったりとくっつけたままなのが玉に瑕である。
「まずは依頼の遂行、ご苦労じゃった。リュウ、アヤ。確かに依頼は達成された。……30年ぶりにな」
ミリアの視線に応えるように
身体がくっついているので、少し見下ろすとすぐ間近から私を見つめているミリアと目が合う。
「尋ね人が私で正解で何よりだ。妙な呪いをかけられずに済んだ」
私は冗談めかしつつ応える。
「リュウよ、お主は相変わらず意地が悪いのう。あんなのは遊びじゃよ。数日もすれば勝手に効果が切れる。……それにしても、30年。30年じゃぞ? よくもそれだけの間、ほったらかしにしてくれたもんじゃ。のう、リュウ?」
「とはいってもなぁ。お前、依頼出したの、別行動を取り始めた翌日だったじゃないか。散々話し合って決めたのに、翌日だぞ? あれには私もさすがに呆れたぞ?」
「ぬ。だって……」
「だってじゃない。それに、
「まぁそうじゃが……まぁそれは後にするか……アヤ」
「は、はい」
「お主、『異邦人』じゃろう? 儂が言っても気は晴れぬだろうが、この世界の者が迷惑をかけて、本当にすまん」
と、唐突にミリアは
「っ——!」
——エレンがいるこの場での、ぎりぎりの伝え方だった。
驚いた顔で私を見る
「あ、あの、頭を上げてください! ミリア——様には何の責任もありません!」
弾かれたようにあわあわと
「冒険者ギルドは確かに国から独立した組織じゃが、ある意味この世界の秩序の一端を担っているのも確かなのでな。そういった意味では迷惑をかけたというのもあながち間違いではない。が……お主の言葉に甘えるとしよう」
「それと、お主はギルドの職員ではない。様などつけなくともよい。そうじゃな。ギルドに属する者としてグランドマスター……それも
ウインクしながら、ミリアが
「えっと、あの……あはは。じゃあ、ミリアさん、と」
「ふむ。まぁ、お主とはおそらく長い付き合いになる。とりあえずはそれでよしとするか。皆にも伝えておくから、何か困ったことがあったら、リュウと一緒じゃなくともいつでも訪ねてくるがいい」
「ありがとうございます」
と、苦笑が混じりながらも無難に話がまとまろうとしていた、その横で。
「ぶふっ!」
我慢しきれなかったのか、吹き出す娘がひとり。
………………。
無言の空気が流れる中、ひとりだけが肩を震わせている。
「……エレンよ」
ミリアに名を呼ばれ、エレンは慌てて口をふさぐ。
「お主は本当に、優秀なくせに残念でもある、面白いやつだのう」
「す、すすす、すみません!」
「あとでしっかりと話をしようではないか。のう、エレン?」
「そそそんな、グランドマスターであるミリア様のお手を煩わせるなどとてもとても!」
「いやいや、構わんとも。部下の声を聞くのも上司の大事な役目じゃ。あぁ、楽しみじゃ」
「ひぃぃ……」
はたから見ている分にはミリアも楽しんでいるのが分かるのだが、エレンからすればその笑みも悪魔の笑みに見えているに違いない。
身から出た錆、ともいえるものの、これ以上はエレンの胃に優しくないか。
「ミリア、あまりいじめてやるな。エレンも、これがミリアのコミュニケーションだ。不必要に立場で下を圧するような奴じゃない。本気で怒ってる訳じゃないからもっと気を楽に持っていいぞ」
「いやいや、だって
真っ赤になってエレンが反論する。
「とはいっても、今更遠慮する間柄でもないからなぁ。それに、そのグランドマスターの前で簡単にボロを出しすぎだろう、エレン。正直、いじりたくなるミリアの気持ちも分かるぞ? こんなにぽんこつさんだったか? ——まぁ、完璧よりもそのくらいの方が愛嬌があって良いとも思うがな」
「ぽんこつって、うぅ。ひどいです。リュウさんの意地悪〜!」
「ぬぅ。リュウ、嬉しいことをいってくれるではないか。が、お主ら、妙に仲がいいではないか? これはちと本気でエレンを問いたださんといかんかのう」
「ひいぃぃ〜〜! 勘弁してください〜〜!」
…………。
……。
そんなこんなで、エレンにとっては気の毒な、他の者にとっては緊張をほぐす適度? な一幕が閉じた頃合いのこと。
ミリアが
「アヤ。ここまで来る間に、ギルド
「あ、はい。じゃあ行きましょうか、アヤさん」
「はい。お願いします、エレンさん」
ミリアに促され、
「あ、そうだエレン。ついでに私のカードも持って行って、依頼の達成手続きも済ませておいてくれないか?」
そういった私の言葉に、エレンがミリアに視線を向ける。
「……まぁ、お主たちなら今回はよかろう。リュウ、ギルド
とは、少し考え、ため息交じりに吐き出されたミリアの忠告だ。
エレンも乗っかってくる。
「そうですよ。特にリュウさんのカードなんて、ランク情報を悪用すれば白金貨何百枚にもなります。本人確認しなくても、使いようはいくらでもあるんですよ?」
「あー。それもそうか。すまん。次から気をつける」
「はい、気をつけてください。ふふ。ミリア様の仰るよう、今回だけですからね」
「? エレン、なぜ笑う?」
「だって、カードの価値を知っても預けてくれる訳ですから。嬉しくない訳ないじゃないですか」
「——そうか。よろしく頼む、エレン」
「はい、任されました。……あの、ミリア様も、ありがとうございます」
私に頭を下げた後、エレンはミリアにも礼を述べる。
私のカードを預けるに値すると評価されていることを、しっかりと理解している。
しっしっ、と追い払う素振りで返すミリアだったが、今度はエレンもそのそっけない態度に怯えることもなく、笑顔で頭を下げたのだった——。
エレンが
「しばらくしたら儂とリュウもギルドに顔を出すから、あちらで少し待っとってくれ」
ちょうど廊下にタイミングでミリアがそう告げると、ふたりは振り向き頷く。
そして、二人の姿が見えなくなった後、ゆっくりとドアが閉じられた。
——ミリアが、「面白くない」という
「エレンとも、ずいぶん仲が良さそうではないか」
「そういうのじゃないさ。ただ、信用よりも信頼——信じ用いるよりも、信じ頼れる相手ができるのは、確かに嬉しいことだ」
「そうやってすぐに相手を信じる。いくら生きても、そのお人好しは変わらんのう」
「お前だってそうだろう」
私の返しにミリアは、ふん、と息をつく。
「……しかしじゃな。いくら人間とは時間の尺度が違うといっても、30年というのはあんまりじゃないか?」
「そちらに持っていくか……しかし、お前なら——お前にとっても、30年はそう長い時間じゃあるまい」
私の言葉に、ミリアは眉間にしわを寄せる。
今回の私の答えは、少しばかり気に障ってしまったようだ。
「それは、城で怠惰に眠りながら暮らせばの話じゃ。こんな所でこんな仕事をしていれば、時間の流れる感覚も人間たちとさほど変わらん。…………30年は十分に長い時間じゃよ」
「……そうか……それも、そうだな」
確かにそうかもしれない。
私も久しぶりに
ミリアは、その毎日を30年間重ねてきたのだ。
鍛錬や修行と称し時間を気にせずに暮らしていた私の30年とは、感じ方も相当に違っているのは当たり前ではないか。
「すまなかった。ミリア」
私はミリアに向き直り、頭を下げる。
「ん」
と、ひと言。
ミリアはもうそれ以上、責めの言葉や嫌みなどは口にしない。
その代わり、と、彼女は両手を上げてアピールする。
「ああ。ふ。久しぶりだな」
私はミリアを抱え上げそのまま膝の上に乗せてから、彼女のお腹の前に腕を回す。
ミリアも、私にもたれかかるようにその軽い身体を預けてくる。
私の胸に、ミリアの背中がぴったりとくっつく形だ。
「ただいま、ミリア」
「おかえり、リュウ」
————。
しばらくの間、互いの温もりを感じながら無言の時間を楽しんだ頃。
ミリアが口を開く。
「アヤを随分と過保護にしているようではないか。ここに来る道中、魔物や賊のひとつも出なかった? そんな訳があるはずなかろうに」
「遠くから気を逸らしてやるだけでそれに気づきもしない連中だ。仮に会敵したところで、
そう答えてはみたものの、ミリアは納得してくれなかったらしい。
「面倒、か。まぁ、このサイスの近くならいざ知らず、近くに町のないところで賊を殺さず捕獲してしまえば……そりゃあいろいろと面倒じゃろうなぁ?」
——どうやら私の思惑はすっかり見透かされているようだ。
「……降参だ。そうだな。確かに過保護かもしれん。だが——」
「
「彼女はまだ若い。しかし強大な力を持つ。争いに巻き込まれることもあるだろう。時には、誰かの命を奪わなければならなくなることもきっとある」
「そんな時に、それを『仕方ない』と簡単に割り切ることができない気持ちを、できる限り今のまま無くさないでいて欲しいんだ」
「……それほどか?」
私の言葉に、ミリアが問いを重ねてくる。
「ああ。搦め手ならともかく、単純な戦闘ならば現時点ですでに個で城を落とせる力があるだろう。なまなかな騎士団など物の数ではない。近い将来、自身の力を掌握し使いこなした
「……そこまでか」
「人間たちの抑止力にも、そして、人間たちの敵にもなれる力だ」
「
「とはいってもな。綺麗なところだけを見て行きていくことはできんぞ? アヤには、この世界ではいちばん生きづらい選択を強いることになる」
「……そうだな。だから、出来るだけのことはするつもりだ」
「となると……リュウと儂がしばらくはついておるべき、か」
「だな。いずれは独り立ちするだろうが、今はまだ保護し導く者が必要だ。……私がそれに相応しいのか、私が本当に正しいのか——断言はできないが、少なくとも、自分で自分を絶対に正しいと言い切るような愚か者ではないつもりだ」
「ふ。リュウらしいな。しかしそうなると、少なくない者の目にリュウやアヤの力が触れるのはどうしても避けられん。多少は目立っても問題ない環境も必要じゃろう。そこでじゃ——」
————。
——。
同じ頃、
「はぁ〜〜。まったく生きた心地がしなかったわ、ほんと」
「ふふふ。でもエレンさん、リュウの言う通り、今の方が親しみやすいです」
「う〜。アヤさんまでそんなこといいますか。これでも私、ちょっと前まで『出来る女』を完璧にこなしてたんですよぉ? それがいきなり、普通じゃあり得ないような人たちと立て続けに出会って……ふぅ、な感じです。まったくぅぅ」
「もちろんそれもかっこいいと思いますけど、多分、しばらくお世話になりそうですし……今のエレンさんの方が、私は好きです」
「……あなたもリュウさんと似たところがあるわね。そのルックスで女で人
「私なんて全然ですよ。リュウに全部おんぶに抱っこですし」
「いや、リュウさんは仕方ないでしょ。なんたってSランク冒険者で
「ですよねぇ」
「それに——」
「?」
「聞いていいのか……ううん、怖くて聞けなかったんだけど……リュウさんとミリア様、いったい何者なんでしょう……30年前の依頼っていっても、ふたりともどう見てもそんな歳じゃないですし」
「さあ……実は私もリュウのこと、ほとんど知らないんです。ミリアさんのこともまったく分からないですけど、リュウの力も、私が今まで見ただけでもあまりにも現実離れしてて」
「そうなんだ」
「はい。……本当に。でも、私はリュウに助けられました。命も……心も救ってくれた恩人です。悪い人じゃない——ううん、とってもいい人だって信じてます。……だから今はそれでいいかな、て」
「すごい評価ね。でも、そういう細かいところにこだわり過ぎないのも出来る女の条件よね。うんうん」
「あはは……ちなみに、ですけど」
「ん? なに?」
「——隷属の輪を、視線を向けただけで無効化して粉々にしたっていったら、信じます?」
「いやいや、そんなのありえないでしょ……ありえないよね?…………まさか、リュウさん……?」
「はい」
「…………て、ちょっと待って」
「はい?」
「隷属の輪って……もしかして、つけられてたのは……アヤさん?」
「はい。そうです」
「そんな! 大丈夫だったの!?」
「言ったでしょう? 命も、心も救われたって。ふふ。それにしてもエレンさん」
「リュウの非常識より、エレンさんはそちらを先に心配してくれるんですね」
「ん? ……いや、そりゃまぁ……」
「エレンさん」
「ん?」
「私のことは、アヤと呼び捨てにしてください」
「む。むむむ。連続攻撃来るわねぇ。——じゃあ、アヤ」
「はい」
「私のことも、エレンと呼び捨てにすること。いい?」
「は——、うん、エレン。これからもよろしくね」
「こちらこそよろしく、アヤ」
————。
——。
「こちらの男はリュウ。辺境で半ば隠居気味に暮らしておったAランク冒険者じゃ!」
ミリアの言葉が響き渡る。
ここはサイスのギルド、受付のあるメインフロアだ。
時間帯は、ちょうど日帰りの依頼を受けていた冒険者たちが戻ってきた頃合いである。
当然かなり混雑していたのだが、
さすがに総本部のお膝元であり、ミリアのこの「なり」でも、彼女が冒険者ギルドのグランドマスターであることを知っている者は相当数いる。
知らなかった者も、黙り込み彼女を見つめる高位ランク冒険者の雰囲気をただ事ではないと察知し、固唾を吞んで状況を見守っている。
そこに、このミリアの言葉が響いたのである。
当然ながら、聴衆——冒険者たち、そして受付カウンターよりも向こうにいる職員たち——からざわめきが起こる。
Aランク冒険者。
冒険者ギルドに登録された冒険者のうち、A、もしくはBランク冒険者は全体の1割に過ぎない。
しかも、限られた1割の中でもほとんどはBランクで、Aランクなど本来は一生のうちに会うことさえ
強力な冒険者が集い、多く所属するこのサイスにおいても、Aランク冒険者は数名しかいない。
グランドマスターを前にしても、思わず口を開いてしまうのは仕方ないところだろう。
しかしミリアの口からは、さらに「とんでもないこと」が発表される。
「このAランクの冒険者であるリュウが、この女性、アヤをパーティーメンバーとして連れてきた。このアヤは、先日ペリシュの王都で冒険者登録したばかりじゃ。しかし——」
「冒険者ギルドの
ミリアのこの言葉に対する反応は、先ほどとは比べ物にならないほど大きかった。
大半は「そんなバカな!」「嘘だろ!?」「あり得ねぇ!」といった、なかば怒号とも化した不満の声である。
それも当たり前の話だ。
強さと報酬を求めて強者が集まるこのサイスには、長年Bランクに届くことを目標に冒険者稼業を続けている者も数多い。なのに、どう見ても成人して間もない歳、まだ「女の子」にしか見えない駆け出しが、グランドマスターの鶴の一声で自分たちを一足飛びに追い越しBランクになろうというのだ。
居合わせた冒険者たちの大半が不満を
しかし中には、事の推移を、ミリアの次の言葉を待っている者も見受けられた。
非常識、破天荒ともいえるミリアの言葉に反射的に不満を述べないのは、ミリアの実力を
しばらくの間、喧騒を眺めていたミリアが手を持ち上げる。
静まれ、の意が込められたその動作に、冒険者たちの口が閉じられ、視線が再びミリアに集まる。
「もちろん、ここにいる者たちも、日々命がけでより上、より高いランクを目指している者ばかりじゃろう。儂の決定に不服を申し立てない者がいないということなどあり得ないのは、儂も重々承知しておる——そこでじゃ」
「これから、修練場でリュウとアヤの模擬戦を行い、皆にはそれを見て儂の決定が妥当かどうか、判断してもらいたい。また、それでもなお不服だというならば、アヤと模擬戦をしてもらう」
「この者の実力を見れば、なぜあえてBランクから
この言葉に、またもざわめきが起こる。
言外に込められたその意味を理解した者は、ごくりと唾を飲み込みアヤを見つめている。
そしてまた、ミリアの言葉を挑戦と受け取ったのか、挙手しミリアに質問する者も出た。
「もしも模擬戦でそのアヤ、という女に勝った場合は?」
「ふむ。そうじゃな……その場合は勝者をBランクに認定しよう」
にべもないミリアの返答に、逆にざわめきが静まり静寂が訪れる。
結果などわかっていると言わんばかりのミリアの態度に不気味なものを感じたのか、あるいは静かに闘志を燃やしているのか。
「この認定を見届けたい者、あるいは我こそはと思う強者よ! 修練場に集合じゃ!」
煽るように言い切り、ミリアは振り返り場を後にする。
「……リュウとアヤの仕合いを見た後で、それでも挑戦する気概のある者が残っていれば嬉しいんじゃがのう」
修練場へと足を向けたミリアの呟きが、果たして何人の冒険者の耳に届いていただろうか。
それは、誰にもわからない——。
おまけ。
「エレン」
「ん? なに? アヤ」
「ちなみに、私に隷属の輪を嵌めたのは、ペリシュ王国の王女なんだよ」
「ちょっと待ってよ! それって、どう考えても聞いちゃいけないことじゃないの!?」
「ふふ。エレンはリュウと私の担当になったんだよ? 多分これからいろいろやらかすと思うから、覚悟しておいて欲しいかなって思って」
「なんてこと……『普通』なの、実は私だけ? あはは……お手柔らかにね……私の常識、かむばぁ〜〜っく……」
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