ルールブローカーカード

ユラカモマ

ルールブローカー

 久しぶりに小学校に入学するとき買ってもらった勉強机の棚を開いてみた。10年前から整理できない性格なのが如実に分かる乱雑な詰め込み方に一つ目を開けて早々呆れ返る。使いかけの消しゴムやキャップのないラインマーカーなどから一応文具をまとめているつもりだったのだが実際使えない物も多そうだ。それでも使えそうなものがあれば使ってやろうと貧乏な大学生は自分を奮い起こした。

 手前からどんどん使えるもの使えないものと分けていくと平べったい棚のなかほどに数十枚の十センチ各に切られたわら半紙がぐちゃぐちゃになって入っていた。一枚とって見てみると鉛筆ででかでかとローロドラゴン、攻撃100、防御45とかかれている。何枚かめくって見ると同じように名前、攻撃、防御がかかれておりそう言えばこんな手作りのゲームが流行ったなあと漠然と思い出す。確か同時にカードを出して自分が出したカードの防御から相手の攻撃を引いて残りが多いほうが勝ちだっけ。シンプルなゲームだが10分しかない休み時間には合っていたようで授業の合間にとても盛り上がっていた。ペラペラと見ていくと明らかに自分の字ではない綺麗な字と売り物のカードのような凝った絵の描かれたカードが三枚出てきた。そうこのゲームが流行ったころ自分でカードを作る他に絵が上手なやつに絵を入れて貰うこともあった。この絵つきカードはレア扱いされブーム中盤辺りからは芸術点などといって攻撃力が割り増し計算されたり問答無用で絵つきカードの勝ちになったりしていた。

(今思うとこれが出回り始めてからブームが下火になっていったよなあ。)

 絵つきレアカードがチートと化して皆がそれを欲しがった結果、クラス中にえらい数のレアカードが生まれてしまった。結局絵つきカードをたくさん持っているやつの勝ちになってしまい、絵描きとあまり仲良くなかった自分は早々に敗けがこんで離脱した。この絵つきの三枚も友達がお情けで恵んでくれたものだ。でもそれを使ったことはない。

(チートとか、おもしろくないじゃんね。)

 チートカードに負けまくった自分としては精一杯の意趣返しだったがそれは間違った感覚ではなかったと改めて思う。ゲームに勝つのは楽しいし負ければ悔しい。でも絶対勝ち続けるっていうのは面白くない。

 このゲームが廃れてもチートカードにはまっていた連中はしばらくはこのゲームをやっていたけれど段々やる人が減って勝てなくなると自然とやめてしまった。

(結構このゲーム好きだったんだけどなあ。)

 かっこよく火をまとうドラゴン、大きな剣を持った騎士、超有名なキャラクター。自分では未だに描けないような上手い絵たち。彼らがゲームを壊してしまった。

(まあ、今さらどうとも思わないけどね。)

 階下から母が呼ぶ声が聞こえた。時計を見上げるともう夕飯の時間だった。そして回りには引っ張り出された文房具が散らばっている。

(うわ、とりあえず使えそうなのだけ持って残りはまた詰め込んどくか。)

 カードも一緒に放り込んで棚をばたんと閉じた。たぶんまた開けるころにはあのカードのことなどきっと忘れてしまっているだろう。

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