第3話 幻滅

黒い獣の強襲に、青い雛鳥は反射的に黒城の背後にバリアを展開した。黒い獣の衝突によりバリアは粉砕され、破片が雨のように黒城に突き刺さる。


「黒城ッ、生きてるッ!?」


「……ああ」


このバリアは本来であれば黒城の指示で発動し、【マストカウンター】と呼ばれる切り札として使われるはずだった。


一度きりしか使えないが、どんな攻撃も無効にするという性質があるためだ。


「まったく……次から次へと騒々しいのです」


部屋の奥から、黒くて長い髪をなびかせ、制服の上に学ランを袖を通さずに羽織った、ジト目の少女が現れた。


彼女の名は 白樺(しらかば) 涼(すず)。


黒城が通っている陽光中学校の生徒会長にして、闇属性のSランク秘宝獣、闇月の支配豹(Dark Moon Dominion Leopard)の遣い手である。


「出たわねッ、ラスボスッ! 誘拐した愛歌ちゃんを返しなさいッ!」


「鴇 愛歌を返せと。そこで寝ている駄犬共も、同じことを言ってきたのです」


青い雛鳥は、横たわっている少年と少女に目を移す。立場的には仲間ではないが、彼らも共通の敵と戦い、そして散っていった。


「鴇 愛歌は光属性の秘宝獣を昇華させられる、とても貴重な人材なのです。返せと言われて、ハイそうですかと返すわけにはいかないのです」


蜂の巣のハニカム構造然り、コウモリの超音波然り、生物の中には、その能力を分析して現代社会の進歩に関わった例も少なくない。


光属性の秘宝獣は、カーバンクルやユニコーンなど回復能力を持つものが多く、その原理を解析をすれば現代医療の発展に貢献されると期待されている。


「……生徒会長の意図は理解した。鴇に昇華させてほしい秘宝獣がいるんだな……」


黒城が言い当てると同時に、光線が彼の心臓を射貫いた。世界がモノクロに変わり、膝から崩れ落ちていく。


「黒城ッ!?」


青い雛鳥の前に現れた白い獣は、白銀の狼の姿をしていた。菜の花 乃呑の持つ光属性のSランク秘宝獣、フェンネルそのものだ。


「どうしてフェンネルが黒城に攻撃するのよッ……」


青い雛鳥は【癒やしの炎】で黒城の傷を癒やそうとする。しかし傷は一向に治る気配がなく、真っ黒な液体が黒城の周りを満たしていく。


「どうしてッ……どうしてこんなことにッ……」


白樺 涼はその光景を淡々と眺めていた。青い雛鳥にはその冷静な態度が、冷酷な態度に映った。


「アンタッ……見てないで助けなさいよォ……」


「何故、そんな無駄なことをしなければならなあのです?」


「アンタねぇッ……!!」


青い雛鳥は、白樺 涼の従える黒い獣、ダムドレオに炎の弾丸を放った。


「ダムドレオ……!!」


「グルアァァァァッ」


炎の弾丸を躱した黒い獣は、青い雛鳥の背後に回り込んだ。そして、鋭い牙で虚空をズタズタに引き裂いた。


虚空が、文字通り砕け散った。


「黒城 弾、幻滅……なのですよ」

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