あわとヒエとダニ

叫(ヒャッハー)

01

 ダニの頭の中にはおがくずが詰まってる。

もしくは何にもなくて糞がつまってるのかもしれない。

そうでなかったらあいつの暮らしてる村・行政ではそう呼ぶみたいだが

実際は酒と金でぐずぐずに煮えきったごみ溜めみたいな連中が

最後の知恵を振り絞って作った「ハウス」もやらずにただ地べた座ってるわけがない

あげくのはてにその村とやらでツバと呼ばれてる垢しか残ってない

てめえより年上の赤線崩れに

「お、おおめこせえへん」と声を掛けて、その返答が

「犬の糞とするおめこはないわ!」であっても口っ端あけてにやけてるから間違いない

たとえツバであっても女に声をかけた事自体があいつの中で十分みたいだ

その日の事を話すたびにあれで何度も今日もせんずりこいたと嬉しそうに話すヤツ

やっぱりダニの頭には糞が詰まってる。


でも俺はダニと話すのは楽しい

初めて会った時も良かった

台風が来てるってんで村の奴らがブルーシートを引っ張ったり紐で補強してる中

ヤツはただ突っ立ってた

「お前寒くねえの?」

「お、お、久しぶりに木の下にいるからうれすうぞ」

俺のビニール傘があまりの雨でパチンコ弾降らされたみたいにしなってんのに

上下一枚ずつしか着てない

ダニいわく普段は木の下は「高級な」奴らのテリトリーだから

日が照ってても普通の雨でも入る事が出来ない。

今日は台風で奴らが退散していて特別だから入れるらしい

「おめえはこの後どうすんだよ?」

「きょうは高級だからな、な、ここに」

「そういや荷物とかねえの?」

「こ、れがあるぞ」

ズボンだったらしきもののポケットから出したのは粉々になった蝉の抜け殻だった。

「今日は特別みたいだからこいつをやるよ」

俺がその辺の石を拾ってその手に乗せると

「お、お、おお、おお、おおきに、おおきになぁ」

と大事に蝉の抜け殻と一緒にポケットに仕舞い込んだ。

その足で向かった酒屋で飲んだ酒は最高に旨かった。


南の島、楽園、そんな形容詞で語られる俺の住む町。

本島と幾つかの離れ小島に分かれた南国諸島と言われるエリアに住んでいる。

観光客には楽園かもしれない。暖かくて物価も安い、

街の人々はその土地に昔から伝わる優しく古めかしい「方言」で話しかけ

口癖は「問題ないさ」「なんとかなるよ」

しかし住んでみりゃ楽園でもなんでもなく、自分のいる町の延長戦

物価が安い分給料はもっと安い、あったかい分湿度がはんぱなく高くて、

食い物なんて半日待たずに腐る。台風の通学路なもんで嵐は地獄のような回数で訪れ

来たら電気なんてついたためしがない

たいした資源も産業もないから、だれもかれもが失業中。

娯楽は「夢いっぱい」の観光客の女たち相手に少々のナンパとセックス。

「絶対貴方の事忘れない、きっと又帰ってくるね」

なんて浜辺の空港で涙のお別れをした直後にゲートアウトした女のみつくろい。

そんな島で、俺は半年位その辺の農家や商店の日雇いをして、

婆さんの残した家に住む、というより行く場所がないから地縛霊みたいにたたずんでるだけの生活をしていた。


そんな生活でダニと話す時は一服の清涼剤みたいな時間だった

半日の日雇いが終わって、村へ歩いて行く道すがら発見したヤツは

激しい炎天下でその辺のノラ犬ですら寝てる午後に赤土を素手で掘り返してる。

台風のせいで「名残惜しい」観光客もそうそうに引き上げたどしゃぶりの町で烏の羽が落ちてないか懸命に探してる。

どっかの物干しからすっとんで持ち主不明になった女物のワンピースを着て海に向かって放尿していたり。

俺は村に新人の女が入ったのかと驚いた後、ダニだと分かった瞬間嬉しくなってつい飲みかけの酒を手渡ししちまったぐらいだ

村もなく物も持ってない放浪するヤツを発見するのは

一種のゲームであり、それプラス発見した時のヤツの姿は特上の満足感が得られる。

ダニは自由も不自由もない生活にはいった一風だった。



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