第6話 運命の歯車

 それからというもの、平田は美優の店へと顔を出し、

 いつも夜はカフェに訪れるようになった。

 そして、平田は美優をデートに誘うようになった。

「今日は、冷えますね…」

 美優は平田に誘われて、街を歩いていた。

「ああ、そうだね」

 平田は自分のジャンバーのポケットに手を突っ込んだ。

「これから、どこに行くんですか?」

「ん?ああ」

 美優は首を傾げて平田を見ていた。

 平田は美優のあまりの可愛さに下を向いたが、頬は緩みきっていた。

「秘密」

「えっ、ひ、ひどいです!教えてください」

 美優が平田の目を見て言うので、平田は美優から目が離せなくなった。

「ヒント。二人きりになれる場所」

「えっ…」

「どーこだ」

「ううん、どこでしょう…」

 美優は考え込んだ。

「そろそろ答え言ってもいい?」

「うーん、もう少し待ってください」

「ん。いいよ」

「うーん、、」

 美優は一生懸命考えていたが、わからないようだった。

「みーちゃん?」

「わかりません〜!」

「はは。わかった。答え言うね?」

「はい」

「東京駅近くの公園だよ。噴水が綺麗なんだ」

「そうなんですか!噴水…私、噴水好きなんです!綺麗で…」

「そっか、よかった。じゃ、歩こうか」

「はい!」

 美優は笑顔で言った。しばらく歩くと、東京駅に着いた。

「あ!東京駅!」

 美優が東京駅を指差した。

「そうだね」

 平田は笑った。

「どうして笑うんですか」

 美優は頬を膨らませた。

「いや、……可愛いなって」

「……っ、や、やめてください」

 美優は頬を赤く染めた。

「やめないよ?だって、君はすごく可愛いんだから」

「そ、そんな…やめてください…」

 美優は恥ずかしがっていた。

「やめない。僕は、本気なんだからね」

 平田は美優を見詰めた。美優は俯いていたが、顔が赤かった。

 そうこうしているうちに、公園に着いた。


「ここですか?」

「そう、ここだよ」

「わあ、綺麗な噴水!」

 美優は噴水に駆け寄った。そんな美優を、平田は追いかけた。

「気に入った?」

「はい!気に入りました!」

「よかった。」

 平田は笑みをこぼした。二人はベンチに座った。

「寒いですね…」

 美優は空を見上げた。

「そうだね…」

 平田も空を仰いだ。平田が美優を見ると、美優は手を擦り合わせている。

 平田は、美優の両手を自分の両手と重ね合わせた。

「平田さん…?」

 美優は驚いたが、顔を赤らめた。

 平田は美優をじっと見詰め、美優の両手を握ったまま自分の頬に美優の両手をつけた。

「あ、…あったかい」

「ん、」

 平田は美優を熱い視線で見つめていた。しかし、美優は平田の顔から手を離した。

 平田は切なく思ったが仕方ないと思った、そのときー

「こっちの方が、あったかいですよ」

 美優は平田の胸に手を置き、一旦手を離した後、平田に抱きついた。

「みーちゃん…!」

「あったかい…」

 美優は平田の胸に顔を埋めて、目を閉じた。

「みーちゃん…」

 平田は美優を抱きしめた。

「平田さんの胸、あったかい…それに…」

 美優は平田の胸から顔を離し、平田の腕に触れ、自分の背中に回った手を離した。

 それからすぐに平田の両手をぎゅっと握った。


「みーちゃん…どうしたんだい?」

「だめ、ですか…?」

 美優は平田の目を見て言った。美優の瞳は、潤んでいた。

「いいや。嬉しいよ。けど…どうしたんだい、急に…」

「嫌なら嫌って言ってください!…ごめんなさい、もうしませ…」

「そうじゃなくて」

 平田は美優の両手を強く握った。

「嬉しすぎて…舞い上がってしまう。みーちゃんの気持ちが知りたい。教えてくれないか」

「私……」

「うん」

「私、平田さんのこと……」

「うん」

「……んっ、恥ずかしい…」

「ん?恥ずかしくなんかないよ。二人きりなんだから」

 平田は美優の両手をしっかりと握って言った。

「さあ、小さい声でいいから、言ってごらん」

「私……」

「うん」

「好きです…!平田さんのこと!」

 美優は顔を赤くして、目を瞑った。

 平田は驚いて絶句したが、平田は嬉しさのあまり、美優を強く抱きしめた。

「…あっ、…平田さん…っ、苦しい…」

 美優は平田の抱擁に驚いたが、嬉しかった。

「あ、ああ…ごめんよ。…嬉しいな…本当、だよね?」

「本当です!私、私」

「いいんだ、僕は嬉しいよ」

「平田さん、私ね、私の気持ち、もっと話しても良いですか?」

「いいとも。聞きたいな」

「私、優介さんに振られて…っきゃ!」

 平田が美優の顔を両手で包んだ。

「他の男の話は…するな」

「っ、は、はい…!そ、それで…ええっと…私、平田さんのこと、前から気になってたんです。優しくて…かっこよくて…でも、そんな平田さんのことを好きにならずに…私」

「その話はよせ。…僕と、初デートした時の話からしてくれ」

「あ、っ、はい…ごめんなさい」

 美優は眉を下げた。

「怒っているわけじゃない。ただ…」

「わかってます…。ごめんなさい、平田さん」

 美優は平田の胸に顔を埋めた。

「私、平田さんと初デートの日、すごく緊張してました。

 優しくて素敵な…私にはもったいないくらいの人と、デートだなんて…信じられなくて」

「そんなことないだろ」

「いいえ。私とは天と地の差ですもの」

「そんなことない。」

 平田は美優の両手を握った。

「そうでしょうか」

「そうだ。」

 平田は美優の目を見詰めた。美優は恥ずかしそうに目を伏せた。


「初デートの日、平田さん、私が緊張してるって気づいて、

 いろいろと緊張を解こうと気を遣ってくださって。嬉しくて、私…」

「君の笑顔が、見たかったから」

「平田さん…」

 美優は平田を見詰めた。

「デートプランって、考えてたんでしょう?」

「ああ、考えてたよ。しっかりとね」

「そうでしょう!平田さん、しっかりプラン考えてくださってて、

 私、平田さんについていくだけだったけれど、とても楽しくて…私を楽しませようって…」

「君が楽しそうにしている姿を、隣で見れるだけでも、僕は幸せなんだ」

「平田さん、私の行きたいところにたくさん連れて行ってくれるでしょう?

 すごく嬉しくて…でも、どうして私の好みとかわかるんですか?私の行きたいところばかり…」

「君は気づいていないかも知れないけれど、君は行きたいところ僕に話しているよ。」

「えっ、そうでしたか…!気づきませんでした…」

「はは。水族館とか、動物園とか、遊園地とか行きたいって言ってたよ」

 平田は笑った。

「そういえばそうかも…。でも、私が行きたいって言わなかったところもあるでしょう?」

「そうだね。そこは、個人的に僕が行きたかったところ。君と行きたいなって思ったからさ」

「嬉しい…平田さん」

 美優は平田の胸に顔を寄せた。

「みーちゃん、あの、さ…」

「なんですか?」

 美優が首を傾げた。

「僕と…付き合ってくれますか?」

「…っ、はいっ!」

 美優は嬉しくて涙をこぼした。

「泣いちゃダメじゃないか。君は笑ってる方が可愛いんだから」

「ごめんなさい、嬉しくて…」

 平田が美優の涙を拭った。


「そろそろ、帰ろうか。」

 平田が美優の手を握って立とうとしたが、美優はベンチに座ったまま、立とうとしない。

「みーちゃん?どうした?」

「いや。私、まだ帰りたくない。平田さんと一緒にいたい」

 美優は拗ねた。

「こら。そんなこと言っちゃ、ダメじゃないか。そんなこと言ったら…

 抱きしめるどころじゃなくなる。僕だって、まだ帰したくないさ。だけど、もう帰ろう。」

「いやよ。私、まだ平田さんと一緒に居たい。」

「みーちゃん…仕方ないなあ」

 平田はそう言いながらも、にやけていた。

「もう少しだけだよ?」

「はい!」

 美優は笑顔で言った。

「みーちゃん、僕のことは名前で呼んでくれないか。」

「なんて呼べばいいですか?」

「守」

「そんな…呼び捨てなんて、できません。守さん、」

「くん、でいいよ」

「いいえ。守さんがいい!」

「参ったなあ。」

「だって、守さん私より年上ですもの」

「いいから、くん、でいいよ」

「でも…私、守さ…んっ、」

 美優は守に唇を塞がれていた。

「……くん、で呼んでくれないなら、なんどでも…唇塞ぐ」

 守は美優の顎を掴んで言った。

「……っ、守さんったら…」

「あ」

「え…?あ!え、えっと、そ、その…まも、る、くん…」

 美優は小さい声で言った。

「ん?なに?聞こえないなあ」

「んもう、ひどいっ」

 美優は守に背中を向けた。

「ごめんごめん。ね?もう一回、言ってよ」

 守は美優を後ろから抱きしめて言った。

「守、くん!」

「ん、みーちゃん。」

 美優と守はしばらく、離れなかった。


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