第2話 「……」
〇コノ
「……」
「…な…何?」
翌日…
朝から、
「…なんか…今日、顔が違う。」
「え?」
「何だろ。リップ変えた?」
「う…ううん?」
「うーん…今日のコノ、いつもより可愛い。」
音に真顔でそんな事を言われて。
あたしは…
「ほ…ほんと?」
これまた真顔で、音に聞いた。
「うん。なんか、顔がイキイキしてる。」
「……」
す…すごい!!
キスしただけだよ!?
あ…ちょっと胸触られて…足舐められたけど…
気持ちいい事したら、顔がイキイキするの!?
「し…しっかり寝たからかな?」
「あー睡眠は大事よね。」
「うん。そう……あ、そう言えば…」
「ん?」
突然、昨日の松野君の事を思い出した。
クスノキの前での告白は、どうなったんだろう。
「昨日、告白されたって?」
あたしの問いかけに。
「ああ、松野?断ったよ。」
音は、あっさり。
「なんで?」
「何となく。」
「……」
これで、三年になって七人目か。
音の好みって、たぶん中学生じゃ無理だよなあ…
「今日、佳苗はロケだっけ。」
「うん。午後から来るとは言ってたけど、撮影が押したら無理だろうね。」
「午後からなら、あたしなら来ないわ。」
「あたしも。」
そんな会話をしながら、あたしと音は窓の外を眺める。
「あ、コノ。枝毛。」
「うわ、ほんとだ。」
「切ってあげる。」
「サンキュ。」
何てことない日常。
机の上に、要らなくなったプリントでゴミ箱を作って。
音がカバンに忍ばせてる、『枝バサミ』と名付けてる小さなハサミであたしの枝毛を切ってくれる。
こんな、なんて事ない時間が。
あたしと音には日常であって、大事な時間。
希世ちゃんに見られたら、グルーミングかって笑われそうだけど。
あたし達は、オシャレと恋の話で出来てる女の子なのよ。
「こないださ、佳苗が海藻パック使ったって言ってた。」
「え?顔に?」
「違う。髪の毛。そしたらさ、髪の毛結べないぐらい、ツルツルになったんだって。」
「えっ、ゴムが抜けちゃうって事?」
「そうそう。あいつ、艶々のいい髪してるわよね。」
「なるほど…あれは海藻パックのおかげなのね…」
ふふっ。
何だか楽しい。
こんな風に、音と一緒にいるのって…
本当、好きだなあ。
あたしがいい気分になってると…
「浅香さーん。お客さんよー。」
教室の入り口で、声がした。
「誰だろ。」
音はそっちを見ながら。
「ちょっと行って来る。」
ハサミを置いて、出て行った。
「……」
体をずらして、廊下に出た音が見えるようにすると。
…誰か、男の子が見えた。
…また、告白かな…
ズキン。
こんなので、胸の痛みを感じるなんて…
あたしって…
醜いな。
* * *
約束の日。
あたしは…音と佳苗に適当な事を言って。
ガッくんの家に行った。
「おう。早いな。」
玄関のドアを開けてすぐ、そんな事を言われて…
まるで、早くラブホに行きたかったみたいに思われたかなって…
ちょっと、恥ずかしかった。
そういうガッくんは、もう私服。
あたしは、洗面所を借りて…私服に着替えた。
少しだけ…メイクもする。
「…お待たせ。」
リビングで待ってたガッくんの前に立つと。
「お。中坊には見えないな。」
ガッくんはそう言って立ち上がって。
「電車に乗るから、制服は駅のコインロッカーな。」
って、あたしのバッグを持った。
電車かあ…
普段、電車に乗らなくても、歩ける距離に全部揃っちゃってるから…電車って新鮮。
何だか…それだけでもドキドキしちゃう。
駅について、コインロッカーに荷物を入れて。
ガッくんは、あたしの手を取って歩き始めた。
…手…繋いで歩くとか…まるで、恋人じゃん?
あたし…ちょっと、いい気になっちゃうよ?
ラブホは、電車で駅三つの場所で。
改札を抜けて裏通りっぽい所を抜けると…
もう…
両サイドに、ラブホ…ラブホ…ラブホ…
「……」
つい…ゴクン。と、息を飲んだ。
ガッくんは慣れた感じでラブホを選ぶと。
「ここで、い?」
あたしに聞いてきた。
「う…うん…」
白くて、きれい。
ああ…
あたし、いよいよ経験しちゃうんだ…
ドキドキする!!
「わー…」
部屋に入って、つい声が出た。
ラブホって…こんな部屋なんだー…
何となく、もっとギラギラした感じを想像してたけど。
ここは…メルヘンチックな感じ…
「先に風呂入る?」
「え?」
「それとも、一緒に入る?」
「…えっ?」
「…あ、風呂入らずに?」
「…いつもは?」
「んー…一緒に入ったり、別々に入ったり。色々。」
い…一緒にお風呂…
ハードル高い気がするけど…
どうせ、裸は見られちゃうわけだし…
「うん。一緒に入る。」
あたしは、意を決した。
ガッくんは、あたしが決断する間にお風呂に湯を張ったり…
タオルを出したり…
な…慣れてる…
「コノ。」
「え?」
突然…
腰を引き寄せられて…キスされた。
あ…あー…
ちょっと残念なのは…
ガッくんが、あたしより背が低い…って事。
でも…
気持ちいい。
シャツのボタン、気が付いたら外されてて…
ガッくんの手が、そこにじかに入って来て…
「…あっ…」
小さく声が出てしまった。
やだやだやだ…
あたし…すぐ声出ちゃうなんて…
淫乱ってやつ!?
「コノ、感じやすい。」
ガッくんが、笑いながら言った。
その…声が…ちょ…超セクシー!!
あ~ヤバい!!
「そろそろ、入ろっか。」
あたしがいい気持ちになってると、ガッくんが体を離して言った。
…何だか、いつもじらされてる気がする。
ガッくんは服を脱いで、さっさとバスルームへ。
あたしは…
どのタイミングで入れば…?
ちょっと悩んだけど。
ええい!!と、服を脱いで…
「…お邪魔しまーす…」
ゆっくりと、バスルームへ。
ガッくんは、すでにバスタブで足を延ばして座ってる。
「……」
簡単にかけ湯をして…先に…体洗っちゃおうかな?
幸い、あまり明るくなくて。
恥ずかしさをあまり感じないのは…ガッくんが、恋人じゃないから?
あたしはスポンジにボディシャンプーを泡立てると、ゆっくりと体を洗い始めた。
「おまえ、石けんの匂いさせて帰って平気なの?」
「はっ!!」
しまった!!
「あははは!!」
「早く教えてよー!!」
ガッくんに、泡を投げつける。
「平気だよ。この後、汗かくし。」
「あ……」
「…ん?」
「……」
そっか。
セックスって、汗かくんだ…
なんか、急にドキドキして来た。
それから…一緒にバスタブで…じゃれた。
結局、またボディシャンプーで体を洗い合って…
……ガッくんの…アレも触ってみた。
アレ…入るの?
って、ちょっと不安だったけど…
ガッくんは。
恐ろしくテクニシャンだった。
あたしは初めてなのに、最初から最後まで気持ち良くて。
イク。って事を…もう体験してしまった。
初めてなのに…
もっとして!!って…
結局、三回した。
大きな声を出しても関係ない。
ラブホ、サイコー!!
* * *
「朝霧さん。」
「はい?」
呼ばれて振り向くと。
「あの…高等部の田中って言うんだけど。」
「はい。」
高等部の田中?
高等部の人が、何の用だろ。
沙都ちゃんの友達か何かかな?
「今、彼氏いる?」
「え?あたし?」
「うん。」
「…いませんけど…」
何だろ。
体育会系の、ちょっと色の黒い田中さん。
あたしを、ジロジロ見て…まあ、まあ、まあ、な笑顔。
「俺と、付き合わない?」
「……」
あたし…
今、告白された?
朝霧さん…って呼ばれたよね?
音の間違いじゃないよね?
「…あたし?」
「うん…」
「……」
「…ダメかな…」
「あたしの、どこがいいの?」
「えっ?え…えっと…いつもニコニコしてて、可愛い所…」
「……」
そ…そんなの、初めて言われた!!
「田中さん‼︎ありがとう!!」
あたしは、両手で田中さんの手を握る。
「えっ!?」
「嬉しいけど、付き合えないわ!!でも、付き合えないけど、めちゃくちゃ嬉しい!!ありがとう!!あなたの事は、忘れない!!」
手をぶんぶんと振って、あたしは田中さんと別れた。
告白されたーーーーー!!
あたしの事、ニコニコしてて可愛いって!!
季節は秋。
ガッくんとは、相変わらず都合のいい関係。
毎週とは言わないけど。
お互いの都合のいい時は、いつものラブホで…セックスをする。
ガッくんによって、かなり開拓されてしまったあたしは…
たぶん…現在彼氏がいる音よりも、あんな事やこんな事をしている。
その都合のいい関係のおかげで…
あたしは、ちょっと自信を持て始めてる。
コンプレックスも…少し、減った。
ガッくんち。
自転車がある。
沙都ちゃんがよく来るから、警戒しなきゃ。
でも、この自転車は沙都ちゃんのじゃない。
ガレージを確認して、あたしは部屋に上がる。
玄関のカギが開いてる時は、勝手に上がっていいって言われてる。
都合のいい関係の特権。
「ガッく…」
「きゃあっ!!」
「うわっ!!」
「あ…」
ドアを開けると。
ガッくんの部屋で…ガッくんと、知らない女の子が…裸になってた。
「……」
「何だよ。チャイム鳴らせよ。」
ガッくんが、あたしにクッションを投げた。
「…ごめん。お邪魔しました。」
静かにドアを閉める。
『今の子誰?』
『幼馴染。』
ズキン。
その場で、瞬きをパチパチとした。
まあ…間違いじゃないよ。
小さな頃から知ってるしね…
でも…
勝手に上がっていいって言ったのは、ガッくんなのに…
クッション投げるって、どうよ。
…今の、彼女かな…
彼女、できたのかな…
そしたら…
あたしとは、ラブホ行けないよね…
…て言うかさあ。
何で、今の女の子とは、部屋でするわけ?
何だかムカムカして来た。
あたしとはいつも、電車で三駅。
あのラブホ。
…あたしだって、ガッくんのベッドでしたいよ…!!
……って…
これって…あたし…
ヤキモチ?
* * *
〇ガク
「今の子誰?」
「幼馴染。」
「なんで急に入って来るの?」
「幼馴染って、そんな感じだろ?」
「…やだ。入れないでよ。」
「はいはい。」
俺は彼女の首筋にキスをする。
「ねえ…聞いてる?」
「聞いてるって。」
「あんなに…自由に…あっ…」
「黙れって。」
「もうっ…あっ…」
…なんで、女って…
こんなにうるさいんだろう。
彼女なら、もっと堂々としてりゃいいのに。
「あっ…学…」
うーん…
可愛い子なんだけど…
なぜか俺の盛り上がりがイマイチ…
…やっぱ、さっきのでちょっと気分が萎えたよな…
くっそ…
コノの奴…
いくら自由に入って来いって言ったからって…
靴見て空気読めよな。
…って…
クッション投げたのは酷かったかな…
俺、二階堂 学は、自分で言うのもなんだけど…
モテる。
そして、エロい。
頭はいいしスポーツもできる。
見た目もそこそこ。
残念ながら、身長がまだ育ちきってないだけに…姉の紅美より10cmも低い。
ま、親父が大きいし、母親も小さくはないし。
その内、ぐーんと伸びる事を期待。
高校一年男子にしては小さめな俺でも、そこそこにモテる。
まあ、見た目だけじゃ中身は分かんないもんな。
俺には、問題がある。
彼女って特別な存在がいない時、俺には手頃なセフレがいる。
だいたい相手は年上。
同じ学校では見付けない。
だが…
この春から、どういうわけか…幼馴染と言ってもいい、コノとそういう関係になった。
そういう関係。
後腐れのない、都合のいい関係。
経験がないって言われて、正直悩んだ。
セックス自体にのめり込むならいいけど…
俺にのめり込まれると困る。
でも理性がない俺は、すぐにコノとホテルに行った。
ぶっちゃけ、15のクセにいい体してるし、声もいいし…
何より相性がいいんだと思う。
コノは初めてのクセにイキまくったし…俺に満足感や達成感…それに、優越感。
男として自信が持てる気持ちにさせてくれた。
…そんなコノに、さっきのは…悪かったな。
次に会う時に、謝ろう。
…って…
そう言えば、今日…こいつ、俺の彼女になったんだっけ。
俺の下で、いやいやと言ってる女を見下ろす。
…うーん。
理性なんてないクセに、彼女がいる間はセフレとはしない。
そんなこだわりを持ってる俺は。
それからしばらく、コノと会う事はなかった。
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