第六十一話 序盤で消える雑魚の必要性

 スズ姉の主人公が所属していた傭兵団の情報には嫌な予感しかせず……俺は慌てて天音たちが向かったストーリー序盤の場面『月面都市東ブロック』へと走った。

 しかし到着した時目の前に広がっている光景は雑多な建物が乱立する裏路地なのではなく……瓦礫の山であった。

 そしてその山の上で……知人女性が二人、遠い目でマシンガンを手に立ち尽くしている様は中々にシュールである。


「……う~ん、やっちゃった」

「……やってしまったわね」

「何をやってしまったのかなお二人とも……」



 俺が呆れの感情を含みまくった声で背後から声を掛けると、二人はビクリとしてばつが悪そうに振り返った。


「あ、あ~夢次君……コレはその……深い理由が……」


 しどろもどろ目が泳ぎまくっている天音だが、彼女が乗っている瓦礫の下から伸びたピクピクと動いている何者かの手が全ての答えなんだろうな。


「……ストーリーを見守るつもりだったけど、主人公とヒロインを追う輩が最もムカつくヤツだったから思わずファイヤーしちゃった……そんなところですかね」

「お、おーけーです……」

「さすが、分かってらっしゃる……」

 

 そう言いつつ引きつった笑顔でサムズアップをかます二人……おーけーじゃねーよ全く。


「どっちかが止めてくれる事を期待したけど、まさかどっちもやらかしちゃうとはな……一応初回近辺だと主人公たちを追い回すって重要な役割がこいつ等にはあったんだけど」

「面目ない……」

「カムちゃんを追い回すのがこいつ等だと思ったら、ついカッとなっちゃって……」


 殺人犯の常套句のような事を言う幼馴染を尻目に、俺は瓦礫に埋もれていたチャラ男にしか見えない『カグヤ91』を引っ張り出した。

 凄いもので瓦礫に埋もれて気絶してはいるけど、その体はどこも傷ついてはいない……やはりここは夢の中だからなのだろうか?

 その事に気が付いたのか天音たちはビックリした声を上げる。


「そんな……私は確かに百発以上の弾丸を叩きこんだはずなのに傷一つないなんて……」

「私なんかRPGと対戦車ライフルをダースでブチ込んだんだぞ!? それなのに無傷だなんてどんなチートなんだか……」

「……君ら本当に容赦ないね」


 現実世界でこいつらに絡まれていた彼女たちのストレス具合が伺えて背筋が寒くなる。

 基本的には温厚な彼女たちにどうすればここまでのヘイトを溜める事が出来るのか……。

 とにかく腐っても登場人物にカウントされているならと、俺はコイツを起してみる事にした。

 夢の中であるのに気絶して起すとか……変な話だけどな……。


「お~い、起きろ~朝だぞ~」


 バジーン! バジーン!! ビシー!! ビダーン!!


 俺はチャラ男の意識を回復させるために軽~く“フルスイング”で頬を叩いてみるのだが、全く起きる気配が見られない。

 う~ん、相当意識が深く遠のいているのだろうか……。

 俺は顔面を諦めて優しく……“全体重を掛けて”ブーツの踵で数回ヤツの腹を踏みつけてみる。


ドゴ!! グシャ!! ボゴ!!


「ど~した~? まだまだお眠ですかね~?」

「ぶご!? げぼ!?」


 しかし聞こえてくるのは肺から漏れ出る空気の音のみ。

 う~んまだまだこの程度では足りないという事なのだろうか?

 しかし俺がヤツを起そうと頑張っていると、天音が怒ったように近寄ってきた。


「何て事するの夢次君! そんな事しちゃダメじゃない!!」

「え、そうか?」

「そうよ、彼を甘く見過ぎだわ! こんな感じの、もっと硬くて重い物じゃないと起きないと思うの私」


 そう言う天音が手にするのは相当な重量のありそうな鉄球だった。

 なるほど、これならコイツも目を覚ますかも……。

 しかしそんな天音の建設的な意見に待ったがかかった。


「いやいや……ここは激痛を与えやすい、こんな錆びて切れ味の鈍った刃物を使った方が効果的なんじゃないかな?」


 神楽さんが手にしたのはさび付いたナイフ……なるほど、確かに刃物は切れ味が鋭い方が苦痛も少ないらしいからな!

 ここまで刃こぼれしてボロボロなら幾らコイツでも……いや、待てよ!?

 俺は二人の素晴らしいアイディアを参考に想像……明晰夢はそんな俺の発想を形として現出してくれた。

 手にしたのは武骨で巨大なバスターソードである。


「重く硬く、更に切れ味の鈍い巨大なこの剣ならより一層強烈な目覚めを提供出来るかもしれないな!!」

「なるほど!」

「凄い! 天才ね!!」

「いい加減にしろ馬鹿ども!!」


 バシ、バシ、バシーーーーン……。


 景気のいい音を立てて、俺たちの脳天にハリセンがさく裂した。

 俺と一緒に現場に急行していた背後に仁王だつスズ姉の手によって……。


「あ、スズ姉やっほ~」

「ヤッホ~じゃない!! ストーリーがどうとか介入しちゃダメとか君自身が言ってた事だろうが!! 何より悪化させてんのよ!!」


 スズ姉の至極まともな説教に俺たちは三人揃って恐縮するのみである。


「いや~日頃つき纏われて面白くもない話を聞かされていたフラストレーションが……」

「そうそう、それにこいつはこの前までアマッちと付き合ってるってデマをまき散らしていた張本人だし……」

「………………そう」


ドゴオオ! 「ブガゲ!?」


 天音と神楽さんの事情説明にスズ姉は無言で素晴らしく腰の入った蹴りを“カグヤ91”に叩き込むと、ヤツは瓦礫の下へと見事に落ちて行った。

 ……何か声が聞こえた気がしたけど、気のせいかな?

 そしてスズ姉は何事も無かったかのように話し始める。


「…………で、これからどうするの? 夢次君の話じゃこれから主人公とヒロインは『裏切った仲間に追い立てられて最新鋭の機体に乗り込む』って流れだったと思うけど?」

「あ!? そうだった!! でも私たちがこの場で完璧にのしちゃったから……」


 天音もそう言われてからようやく思い出したらしいな。

 喩え初回で消える雑魚であっても、役割ってヤツはある。

 主人公を追い詰める『傭兵団』がこのザマでは上手い事話が進まない可能性もある……。

 となると……今俺たちが取るべき手段は一つ。


「みんな聞いてくれ……ストーリーを進める為に……俺たちが傭兵団をやるぞ!!」

「「「え!?」」」


 俺がつぶやいた苦肉の策に3人ともが難しい顔になったが……さすがに反論意見は一つも上がらなかった。

 自業自得の自作自演……夢の中なのに何とも夢の無いストーリーになりそうである。

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