念願のゲーム世界に飛ばされたのにコレジャナイ感が半端ない

なかの豹吏

第1話

 

「おい、お前さっさとしろよ! 急いでんだって!」

「はい」

「もうあっためねーでいいから!」

「はい」


 乱暴にコンビニ袋を手に取って、その客は店を出ていった。 はぁぁ……鬱陶しい。 深夜はよくいるんだよな、ああいう客。


 俺の名前は朝霞怜也あさかれいや、深夜のコンビニでバイトをしているフリーターだ。


 高校を卒業してから今まで、コンビニのバイト一筋のベテランな俺からしてみれば、こんな酔っ払いの客なんかは慣れたもの。 死ねばいいのにな。


 その俺も早いもんで23歳になった。 いい加減まともに就職しろと言う親の冷たい視線を物ともせず、現在も実家で親の脛をガシガシ齧っている。



「お疲れ様でしたー」


 さ、帰ろ。 なんの出会いもないバイト、面白くもない。 なんとなく続いたから、今更バイト先変えるのも面倒で続けているだけだ。



 ◆



「さぁて、今日はどんなゲームが見つかるか」


 バイトから帰ると、すぐさまパソコンを立ち上げる。 俺の唯一の楽しみは、このゲームだ。


 現実はつまらない。 親に白い目で見られ、なんのスキルアップにもならないバイト。

 そんな事はない、自分次第だ、それならやりたい事を見つけろよ。 そんな言葉は俺には響かない。


 俺は楽に生活が出来て、ゲームをする時間がたっぷりある今を気に入ってる。 それでいい。

 まぁ、もし望みが叶うとすれば……ゲームの世界で暮らしてみてーなぁ、その世界で無双して、勇者様!……とか言われてよ、カジノでも遊び放題、可愛いヒロインキャラとイチャイチャして、サブキャラの女の子も囲ってハーレム?!……的な遊びをしたい……。 俺、病気かな?


 もう数え切れない作品をやり尽くしてきた俺の最近のブームは、ゲーム配信サイトで掘り出し物のゲームや、笑ってしまう様なクソゲーを漁る事だ。


 うーん……中々面白そうなのがねーな。

 ん? 『ドラゴンロード』? いかにも有名作をパクった様なタイトルだな。 どれ、どんなもんかちょっとやってみるか。


「ふーん、まあ予想通りのRPGか」


 大して期待は出来ないが、とりあえず進めてみるかね。



 …………………。


 ―――な、なんじゃこりゃ!? ひどい、ひどすぎる!


 初期装備で始まりの村から出てみれば、モンスターはすげー弱いし、そのくせ経験値や金はいいのかって程くれる。 どんどんレベル上がるし、金もあっという間に貯まって装備は簡単に整う。


 フィールド上の森に入ると薬草手に入るから宿屋いらねぇ! てか道具屋薬草売るなよ! 買わねーわ!


 仲間の初期魔法が強力すぎるし、レベル上がるからどんどん上級魔法を覚える。 これがまた上級魔法はMP消費激しいくせに、初期魔法の1.5倍程度の威力……使わねーよ! どんなバランスで作ったんだよ!!


 NPCは話しかけると一種類の言葉しか喋らん、もうちょっと頑張ろーぜ!!


 モンスターは同じよーなのが先に進むと色だけ変えて、申し訳なさ程度にちょいと角が生えただけみてーなのだし。


 極め付けはラスボス、全然迫力ねーし、なんならちょっと可愛いわ! 特に真新しい攻撃もしてこないで、普通に倒せるし。


 ていうか………




 ドラゴン出てこねーよ!!!






 なんだよドラゴンロードって! 道中楽でドラゴンいねーよ!!


 これは……世紀のクソゲーだ……。 いや、むしろ、面白かったよ……。


 僅か3.4時間でクリアしてしまった。 というかこれは、クリアさせたいゲームだったんじゃないか?


 エンディングが始まり、俺は世紀のクソゲー、『ドラゴンロード』の思い出を噛み締めていた。 そんな思い出ないけど……。


 ………

 ……………

 ………………………

 ………………………………長ぇ!!


 ゲーム本編すぐ終わんのに、エンディングだけ長ぇよ!!


 なんなんだ……なんなんだこのゲームは! 制作者の意図がここまで読めないゲームは初めてだ……。


 しかし、ここまで見たら最後までどうなるか見届けてやる! このエンディングを!



 ◆



「……………」


 パソコンのキーボードに突っ伏す様に怜也は眠ってしまった。


 ディスプレイには未だ『ドラゴンロード』のエンディングが流れている。 一体このエンディングは何時間続いたのか、下手したら本編よりエンディングの方が長い可能性すらある。


 暫くして、画面が真っ暗になり、白い文字が浮かんでくる。


『このエンディングを最後まで見たあなたこそ、真の勇者』


 笑わそうとしているのか、馬鹿みたいなメッセージが画面に映る。


『この世界には、あなたが必要です。 世界を、変えてくれますか?』


 そして、画面には、『はい』『いいえ』二つの選択肢が映る。


 その時、眠っている怜也が無意識に、キーボードのエンターキーを押し……。



『ドラゴンロード』は、始まったのだった。



 ◆



 ………ん、うぅ……。 あれ……? なんだ、俺、寝ちまってたのか。 クソゲーのエンディング、最後まで見れなかったな。


 いつの間にかベッドにいるし……。


 …………なんか、殺風景になったな、俺の部屋。



 ――――ッ!!? なんだ!? 違う……俺の部屋じゃない! ここは、全く違う……知らない部屋だぞ?!


 なんで……? 俺は自分の部屋でゲームしてて、寝落ちした……だけだろ?


「どこなんだよ……ここは」


 木造の建物、誰かの部屋、というより仮眠部屋みたいな感じだけど。 とにかく部屋を出て、状況を確かめないと。


 部屋のドアを開け、通路を進むと、またドアがあった。 そのドアを開けると……。


「――教会……か?」


 行ったことはないけど、テレビや映画で見た事がある。 ここは、間違いなく教会だ。 なんで教会に? まさか、寝たまま死んだ? ここはあの世で、あの世は教会からなのか?


「目覚めましたか」

「――ッ!!」


 誰だ?! シスター……? そう、シスターだ。 教会にいる。 金髪の四十代ぐらいの女の人、目も青いし、外人……だよな? 日本語喋ってるけど。


「必ず現れると思っていました、勇者様」


「は?……俺、すか?」


 なにを言ってんだ? 勇者……って言ったよな、俺に言ったのか?


「今この世界は百年に一度復活するという危険な魔物の脅威に怯えています」


「あの……ここ、ドコすか?」


「ここは最果ての小さな村、コルト。 言い伝えでは、この村に勇者が現れ、魔物の脅威から世界を救うと伝えられています」


「………はぁ」


 よく分からんが、あの世ではなさそうだな。………待てよ、百年に一度復活する魔物、そんな下手くそな設定あったな……。 最果ての村、コルト……?



 ――――コルト!! そう……そうだ!


 あのクソゲーの始まりの村だったよな? タイトルも思い出せないが、なんだっけ?

 てかそんな訳ねーよな、でも、なんで俺は教会にいて、この外人シスターは俺を勇者だとかいってんのか説明がつかんし……。


「どうか、この世界を救って下さい、勇者様」


「あの、これはなんのドッキリでしょう」


「微力ながらこの教会の僧侶、カノンが旅のお手伝いをさせて頂きます」


 聞いてねーなこのオバハン。 大体教会にシスターは分かるけど僧侶ってなんか違和感なんですけど? ていうか話進めんなよな……。


「だからですね……」


 流石にツッコミを入れようと思ったその時、



「勇者様、カノンと申します。 まだ未熟者ですが、共に世界を救うお手伝いをさせて下さい」


「―――ッ!!」


 この子は………あのクソゲーのヒロインキャラ、ピンク色の髪にロングヘアーというひねりのない、クソゲーならではのベタなヒロイン……。


 マジ、なのか……。 考えてもみろ、あのクソゲーの為にここまで大掛かりなドッキリするか?

 来たのか? 俺は……念願のゲームの世界に……!


 ち、ちょっと待て、視界の端に……アイコンがある!! 指で、押せる……。


 職業………勇者……?


 マジ……か。 こりゃ本物だぜ!! フリーターの俺が、勇者!! レベル72? これ、クリアした時のレベルじゃねーか!


 引き継いでるのか、元々楽勝なゲームなのに、俺無敵じゃねーか! そう、そうだ。 思い出した! 『ドラゴンロード』だ!!


 念願のゲームの世界に来れたと思ったらあのクソゲーかよ! でも、考えてみりゃあの楽勝なゲームなら、俺は簡単に世界を救った勇者、英雄になれる……!


 しがないフリーターの俺が………ここでは、無敵の勇者、英雄だ!!


「……カノン」

「はい、勇者様」


「俺の名前はレイヤ。 一緒に旅立とう。 必ず、この世界を救ってみせる!」


「……はい!」


 ……可愛い、可愛いじゃんカノン!! てかゲームの時と違って皆色々喋るし!


 やってやる……! 負け組の人生のやり直しだ、俺は、この世界で英雄になるんだ!!



 ◆



「しかし、レイヤの強さは底なしだな。 あのモンスターを一発かよ」


「レイヤ様なら当然です。 なにしろ、勇者様ですから」


 俺の強さに感心しているのは、途中のシナリオで仲間になった戦士のデューク。 イカツイ身体に大雑把な性格、デリカシーは無いが頼りになって、実は優しい男。 ベタだ。

 そして、俺を褒め称えているのは最初の仲間であり、このゲームのメインヒロイン、カノンだ。


「フン、アタシの補助魔法のおかげもあるのを忘れないでよね!」


 口を尖らせてそう言っているのが、これまた途中仲間にした女魔法使いのエレインだ。 オレンジ色の癖のある髪で肩ぐらいの長さ、ちょっと生意気なところがたまにキズという、これまたベタベタの設定。


「分かってるよエレイン、いつもありがとう」

「べ、別に、アタシはさっさと平和な世界にして、楽したいだけなんだから……!」


 顔を赤くして話すエレインは、どうやらツンデレキャラみたいだ。 まあ補助魔法なんてなくても、実は楽勝なんだがな。


 あれから俺は、このデタラメな強さと甘々のゲーム難易度で、次々に敵を倒してシナリオを進めていった。


 はっきり言って楽勝! 仲間からは完璧な信頼を受け、救ってきた人々達からは感謝され、羨望の眼差しを受ける。


 ああ、なんて気持ちがいいんだ!! 最高だ! あの情けない人生が今や、人に頼られ、憧れる勇者……そして、もうすぐラスボスを倒し、英雄になるんだ!!



 そして、その時はやって来た!



「ついにここまで来たか、レイヤ、いくらお前でも気を抜くなよ!」


「ああ、わかってるよデューク」


 だーいじょうぶだって! ほら出てきた、可愛いラスボスが。


「レイヤ様、防御魔法をかけます!」

「ああ!」


「神の加護ベネディシテ・デウム!」


 いらないけどね!

 カノンからの補助効果で身体に光を纏う。


「レイヤ! アタシが仕掛けてるうちに攻めて!」

「わかった!!」


上級炎魔法フラム ブルー!!」


 それもいらないけど!!

 エレインは炎の上級魔法で攻撃している。

 エレイン、このクソゲー初級魔法とあんまり効果変わんねーから!! MPめっちゃ減るし! やめとけ!


「おらあぁぁぁぁ!!」


 俺の会心の一撃で、あっさりとぽっくりと逝ってしまった可愛いラスボス君。 そして、


「レイヤ! やったな!!」


 うーん、まあね。


「やっと……終わったのね」


 あの生意気なエレインが泣いている。 泣く程苦労してねーだろ、俺達。


「――おわぁ!?」

「レイヤ様! やりました! 遂に……世界に平和が……!」


 カノン……そんな、抱きつかれると……ああ、やーらかい、気持ちいいなぁ……。

 こんな可愛い女の子に抱きつかれるなんて……来てよかった! 本当に来てよかったぁ!!



 その時、頭の中に直接話し掛けてくる声がした。


『あなたこそ真の勇者』


 なんだ、これは? カノン達には、聴こえてない……のか。


『この世界には、あなたが必要です。 この世界を、変えてくれますか?』


 世界を、変える? 救うんじゃなくて? まあ、もう、救ったしな……。


「―――ッ!?」


 コマンド? 選択しろって事か?



『クリエイティブモード』 『元の世界に戻る』



 クリエイティブモード、って事は、この世界にある物なら、なんでも自由自在って事……か? 今でも反則な程強いのに、そんな力を?


 元の世界に戻る……はは、はははは!!

 戻るわけねーだろが! あんなつまんねー世界によ!!


 これから俺は、この世界の英雄として生きていくんだ! 俺は迷わずクリエイティブモードを選択した。


 そして、俺と仲間達は凱旋する……城では吉報を待つ王様が待っているし、色んな村や町では、俺達を歓迎してくれるだろう。


 しかし……やっぱりドラゴン出て来なかったな!

 最高のクソゲーだぜ! 『ドラゴンロード』はよ!!



 ◆



 城に凱旋すると、王様と面会して感謝の言葉を貰い、明日は国を挙げて盛大に讃えられるらしい。

 俺達四人はその日、城の客室に泊まらせてもらい、戦いの疲れを癒す事にした。 ……疲れてないけどな! ノーダメージだっての!



 俺は明日を思うと興奮して眠れずに、夜の城を散歩していた。 三階の城の外通路に出ると、夜風が優しく吹きつけ、心地いい。


「あの冴えない毎日を過ごしていた俺が、明日は英雄……か」


 ここまで来ると、流石に余裕が出るというか、俺は柄にもなくアンニュイな気分に浸っていた。

 父さん、母さん、怜也は幸せになります………ぷぷぷぷー!


 今後は英雄として讃えられ、王国の重職に就いて羨望の眼差しを受け、ゆくゆくはカノンと……たまらん、たまらんな!! その気になれば国だって作れるんじゃねーか!? 夢は広がるなぁー!



「こんな夜中になにしてんの?」


「――!……なんだ、エレインか」


「なんだとはなによ、共に戦った仲間に随分じゃない」


 相変わらずの生意気そうな顔で俺を見るエレイン。 まあ、なんだかんだ文句を言いながらも協力してくれるいい奴なんだけどな、結構可愛いし。


「なんだか眠れなくてな、散歩してただけだよ」


「ふーん、明日には世界を救った英雄、勇者様だもんねー」


「なんだよ、揶揄うなよ」


 ははははっ! そーなの! 俺、そーなんだよ!


「揶揄ってないよ、これから世界は平和になる。 まだモンスターがいなくなったわけじゃないけど、襲われる様な村や町は減っていくでしょ、レイヤのおかげだね」


「……なんだよ、珍しく褒めるじゃないか」

「たまにはね〜、でも……世界が平和になっても、アタシには、帰る場所、ないもん」


 そうか……エレインの村はモンスターに襲われて、滅ぼされてしまったんだったな。 その唯一の生き残り、ってシナリオだった。 ベタだ……。


「お前だって英雄の一人なんだ、この世界で最強の魔法使いだろ? これからなんでも出来るし、居場所なんていくらでもあるよ」


「そんなの……いらない」

「エレイン?」


「英雄になりたいから戦った訳じゃない」


 そうなの!? 俺そうだけど!


「じゃあ、村の仇か? モンスターが憎い……からか?」

「それも、あるけど……」


「なんだよ、煮え切らねーな、らしくないぞ?」

「うっさいわね! アンタバカでしょ?! あんな一緒にいてわからないの!?」

「わからん! 戦う理由は人それぞれだ、俺には心を読む能力はない!」

「ポンコツ勇者!」

「なっ!?」


 ……この小娘、世界を救ったフリーター様を舐めやがって……!


「アタシは、家族が欲しいのよ!」


「――ッ!?……お……おい……」


 な、なんだこれ? 急にしがみついてきやがって……。 なに? なに展開!?


「レイヤと……作りたいの……」

「へ?」


 ち、ちょっと待て! 家族? 俺と? ……プロポーズって事か?! え、こーゆーのって女の子の方から……でもオッケーだよって……誰か歌ってた……いや、ちょっと違うか……。


「カノンじゃなきゃ……だめ……なの?」

「え……? いや、ま、その……」


「………風魔法ヴァン!」

「おっ?! わぁぁぁ!」


 な、なんだよ……? 風の魔法で吹き飛ばされた?


「な……にすんだよ……!」

「うっさいポンコツ勇者! はよ寝ろ!」


 俺に暴言を吐いて、エレインは部屋に戻って行った。

 うーん、エレインは俺を好きだったのか……。 ちょっと愛情表現が激しいが……。

 何しろモテない日々が続いてたもんで、そういうのに鈍感だったんだな。 いや、勇者ってやっぱモテるな! よしよし、時期が来たら第二夫人にでもしてやるか!!


 それにしても、女の子に抱きつかれて告白されるなんて……来てよかった! ビバ異世界!!



 ◆



 次の日、俺達四人は国を挙げて盛大に讃えられた。 エレインは俺と目が合うとプイッと顔を背けるが……可愛いやつよ。


 それから俺は、色んな国や町、村の復興に協力し、更に名声を欲しいままにした。 クリエイティブモードのおかげで、この世界にある物はなんでも出せるし、最早俺はこの世界の神と言っても過言じゃない!


 そして、エレインには悪いが、俺とカノンは恋人になった。 ぐふふふ、今は一緒に城の近くの豪華な住まいに暮らしている!

 あんな可愛い女の子と同棲なんて、現実世界じゃ夢みたいな生活だ! 今までの人生の鬱憤を晴らす様に、俺はカノンの身体を毎晩のように求めた。 僧侶様と言っても……女よのう。 今じゃカノンも大分変わってきたぜ……ぷぷぷ!


 因みに、戦士のデュークは王国の騎士団長になり、国の兵士達の訓練に当たっている。 まあ、大して危険なモンスターもいないんだが……。


 そして、エレインは……姿を消した。

 何も言わずに居なくなるのは、ちょっとな……。 少し責任も感じるし、寂しい気持ちもある。


 今はかなり遠くの町の復興に来ていて、もう一週間もカノンに会ってない。 だが、それも今日で終わりだ! 仕事は片付いたし、早く帰ってカノンの笑顔を見たい! 帰ったら真っ先に可愛がってやるぜ!……ぐふふ。


 さて、帰ろう! 俺は移動魔法でひとっ飛び、愛するカノンのいる家に戻る。


 さあて、こっそり忍び寄って襲ってくれようか……! たまりませんな、人生とゆーのは!

 ん?……何か話し声がするな、客が来てるのか?



「こんな事……やっぱり後ろめたくて……」


 カノン……なんだ? なんの話だ?


「そうだな、でも、俺達は旅をしている頃から、惹かれ合ってたんだから」


 男の声……誰だ?


「ええ、でもレイヤは世界を救った勇者様……。 私は、感謝してます」


「俺だってそうだ。 だからと言って、俺達の気持ちは、俺達だけのものだろ?」





「……デューク……愛してる」

「俺もだ……カノン」


「んっ……ぅ………っあ……」





 ――――なんだ……? なんだよ……これ………。




 世界を救った英雄、勇者の俺は……愛する二人の恋路の障害………だって……?


 旅の途中から二人は……なのに、俺に気を遣って、我慢して俺と一緒にいたのか? カノン……!




 ―――ふざけるな!! 馬鹿にしやがって!!

 お前らなんかなんにもしなかったじゃねーか! 世界を救った? そんなの俺だけで出来た!! ついて来てただけで英雄になったんだろうがてめーらはよ!!



 ………馬鹿らしい………世界の英雄、勇者……復興?………やめてやる、こんなくだらない事……!




 やっぱり……このゲームはとんだクソゲーだぜッ!!!


 俺はあの淫売僧侶達から姿を消した。 そして、深い森の中、住まいを作り、暮らしている。


 今の俺の楽しみは、クリエイティブモードの力を使って、



「ギャアアアァァァ!!」

「グォォォオオ!!!」



「ははははっ! すげー! 今度はこんなモンスターが出来たぜ!! こりゃ王国の騎士団なんか目じゃねーなぁ!!」


 好き放題の力で、モンスター達の融合を楽しんでいた。 するとどうだ、あの弱っちくて可愛らしいモンスター達が、おぞましく凶悪、そして強力なモンスターになっていく!


 試しに何体かで町を襲わせたら、あっという間に壊滅してきやがった! はははは! おもしれー! 人間といるよりこっちの方が全然おもしれーよ!!

 なにより、コイツらは俺を絶対に裏切らないしな! 人間はダメだ、流石に作れないみたいだからな、だから裏切らないように作り変える事も出来ない。


 じゃあ……滅ぼしちまうか?……ククク!



 そんな日々が続いた、ある日だった。



 ◆




「誰だ……お前?」


 傷だらけの人間が一人、俺の前に立っている。


「……ひどいね、随分じゃない」


「俺の可愛いモンスター達を掻い潜ってここまで来たのは大したもんだが」


「まさかとは思ったけど、こんな事出来るのは、アンタしかいないもんね」


「おい、俺は人間が嫌いなんだ、死んでもらうぞ」

「自分も人間だろーが! このポンコツ勇者!!」


「――!!?」



「よく見なよ! アタシがわかんないの!?」




「……お前……エレイン……か?」


「鈍感男、やっとわかったか……」


「なるほどな、お前ならここまで来れるかもな。 だが、勝手に消えたお前が、今更なんの用だ?」


「レイヤ、アンタが消えた理由は大体聞いてるよ」


「……それで?」


「見た事もない強力なモンスター、滅ぼされた町……世界はまだそれがレイヤのやった事だとは思ってない。 寧ろ助けを求めて、レイヤを探してる」


「……ク、ククク……ははははは!! 俺に? 助けを?! これは傑作だなぁ!!………それで、お前は俺を、止めに来たわけだ?」


 とんだ笑い話だぜ! 俺が襲ってんのに俺に助けて欲しい?! こんな楽しい事ねーよ!!


「悪いが俺は――」

「別に?」


「……あ?」


「アタシはただ、レイヤに逢いたくて来ただけ」


「お前、イカレてんのか?」


「レイヤがカノンと恋人になったのなんて見たくないから姿を消した。 レイヤがカノンから離れたって聞いたから、アタシはレイヤを探した、それだけ」


 ああ、そーいやコイツ、俺が好きなんだっけ? バカバカしい……どうせ人間は裏切るんだからよ!


「生憎だがな、俺は人間が嫌いなんだよ」


「さっき聞いたよ、レイヤと違ってアタシは頭がいいんだ」


「ククク……思い出してきたぞ? 相変わらず生意気な女だなぁ」


「もっと……思い出してよ」

「んー?……あまり近寄ると、死んじゃうかもよ? エレイン」


「今日まで、死んでたよ……!」


「――ッ!!?」





 ―――――ははッ!




「うん、うん。 思い出した! 前もこうやって俺に抱きついてきたよな!」


「………」


「俺と家族になりたいんだったなぁ! 残念だが……あの時の再現とは、ならなかったな」



「……ゥグ……カハッ……ァ……」


 エレインの腹には剣が貫通して、温かい血液が俺に零れ、伝わってくる。



「頭、いいんだよな? エレイン、聞いてなかったのか? 俺は、人間が嫌いなんだよ」




「……おもい……だしたなら……いい」


「なに、言ってんだ?」




「アタシじゃ……だめ?」


「はぁ?!」




「にん……げん……きらい、で……しょ?」


「……そうだよ! そう言ったろうがぁ!!」





「アタ……シは……裏切らない……! レイヤしか……いないし………いらない………!」



 は? ……もういいから、疲れたんだよ。 今が楽しいのによ! なんでめんどくせー人間を信じてまた人間やんなきゃなんねーんだ!! うるせぇよ!!!






「アタシを………融合してよ………モン……スター……と」






「お前……マジで………イカレてんのか?」





「それで、いいの………」




「信じて……?」





「家族に…………なろ?」




 ◆




「ガアァァァァ!!」

「オォォォォオオオン!!!」


「も、もうだめだぁ! あ……」


 鈍い音と共に異形の魔物が兵士の頭を咀嚼した。


 城の内部では、



「王は逃げ延びて下さい!」


「……いや、無駄だろう……。 どこに逃げても……この国は……もう……。 カノン……君だけでも、いつかまた四人が集まれば……あるいは……」



「そんな……希望を捨てないで! きっと……来てくれるから……!」




「ねぇ、それ……これのコト??」



「――ッ!!? ………うそ……そんな……デューク……? や……いやああぁぁぁぁ……!!」



「ふふふ、半分凍らせてぇ、半分焼いてみました! 器用でしょ? アタシ。 でも平気、顔は残してるよ? 好きなんでしょ? キスする?? ……最後にさ」


 その雌らしき人に近い魔物は、無残にも下半身を焼き尽くされ、上半身を氷漬けにされたデュークの、残った顔を掴んでカノンに突きつけた。



「………なんで、こんな事……が? 世界は、平和になったんじゃ……ないの……?」


 変わり果てた恋人を見せられ、絶望に崩れるカノン。



「さっきの質問だけどさ、アンタが来て欲しい人って、デュークコレだよね? ……もし、違うなら……アタシもうキレちゃうかもよ?」


 しゃがみ込んでいるカノンをその魔物は見下ろしそう言った。 そして、カノンは呟く。


「レイヤ……」


「はぁぁぁ!!?……言った……言ったよコイツ!! ……もういいや、吐き気がする、今殺っちゃお」


 その魔物の刃がカノンを襲う、その時、


「待て!!」


 鋭い声に、その刃はカノンの身体を切り裂く寸前で止まった。



「全く……融合すると凶暴性が増すのは悪い癖だぞ? 後で戻ったらお仕置きだな……





「………エレ……イン……?」





「だって、コイツのせいで起きた事でしょ? アタシは……幸せだけど……」


 デュークの頭をぶら下げたまま、うっとりとした表情で声の主を見つめるその魔物は、エレインと呼ばれていた。

 そう呼んだおぞましい姿の魔物は、無残に切り裂かれた国王の亡骸を放り投げ、カノンを見つめていた。



「これが……エレイン……?……じゃあ……うそ……よ……こんな……」


 その魔物は、カノンに近づき、顔を間近に寄せてくる。




「……俺って……わかるか?」



「……もう……やめて……私だけ、殺して……終わりにして……下さい、……」


 両手で顔を覆い、縋るように言葉を紡ぐカノン。




「………カノン」


 その姿を寂しい目で見つめるレイヤ。 そして、顔を覆ったまま、震える声でカノンは、



「私の……罪なのだか――」


 懺悔の途中、覆っていた両手の手首諸共、首が飛ばされ転がる。



「……いい加減にしてよ、レイヤ。 気分悪い……」


 カノンの首と身体を引き離したエレインは、不機嫌そうに言い放つ。


 パーティの仲間にして英雄の一人、そして恋人だったカノンの無残に転がる生首を惚ける様に見つめ、レイヤは呟く。




「……帰ろうか、エレイン、我が家に」


「うん!」



 ◆



 その国は滅びた、英雄と呼ばれた勇者によって……。


 そして、いつしか俺は魔王と呼ばれ、この世界に君臨している。


 世界は勇者を探しているらしい……とんだ茶番だな。 勇者はいねーよ、勇者は、魔王だからな。


 こうなると次の楽しみは、あれだな。 あれしかない。



 やってこいよ! 次のプレーヤー!


 今度の『ドラゴンロード』は簡単じゃないぜ? 難易度上げとくからなぁ!!



 安心しろ、クソゲーなんて言わせねーから。俺がからな!


 ちゃーんと、『ドラゴン』らしきモンスターも用意して待ってるからよ!!



 なぁ、エレイン? 楽しみだよな……。

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